【第23回】運び屋椿

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Episode3 権力の傀儡(5)

 宇宙開拓時代の初期に太陽系のあちこちに作られたものだと思う。
 居住スペースが併設される、昔ながらのコロニー。
 トラックは発着口から中に入ると駐車場に停車。
 すぐに荷降ろしが始まる。

 ――と言っても、ものの十分くらいで終わってしまった。
 そもそも積み荷が少なかったから。
 ボク、必要でした?

「ちょっと、あーた、いらっしゃい」
「え、ボクですか?」
「他に誰がいて?」
「まあ、そうですよね」
「ハロルド、車を見ていてちょうだい」
「はい」

 ランコさんに呼ばれて、中の移住スペースへ向かう。
 居住スペースは意外にも緑に溢れた場所だった。
 採光窓から光が降り注ぐ。
 木々や草むらにはやわらかな光が落ちている。
 ゆるい勾配のレンガ道が敷かれ、見渡しもいい。
 広さは大きなグラウンドが二つ分くらいだろうか?

「ここは?」
「レクリエーションのためのお庭ですわ」
「なんのために?」
「あなた、なにもない簡素な箱の中にずっと閉じ込められていたらどう?」
「いやになりますね」
「それが療養中なら、なおさら病は悪化するでしょう」
「……え?」

 そう言われて、ボクはようやくここがなんなのかわかった。
 ここは医療コロニーなのだ。
 この広場に出て来ている人は、みなパジャマ姿だし、車イスの人なんかもいる。

「すみません。気付かなかった」
「別に運び屋にとっては、ここがなんであるかなんて、そんなに関係はありませんものね」
「でも、どうしてここに?」
「ついてらっしゃい」

 そう言うとランコさんは、広場のレンガ道を歩いて行く。
 するとレンガ道にしつらえられたベンチで本を読んでいる少女が見えた。
 歳のころは十一、二歳くらいかな?
 肩までの髪にパジャマ姿で、大人も読むのが難しそうな書籍に目を落としていた。
 彼女はランコが近づいてくると気付いて顔を上げる。

「あ、ランコさん」
「お久しぶりですわ」
「今日はどうしたんですか? ツバキお姉ちゃんは?」
「ツバキ……お姉ちゃん??」

 ボクが驚いて目を見開く。
 ランコさんは構わず彼女と会話を続ける。

「コウメさん、今日はツバキは仕事なの」

 するとコウメと呼ばれた少女は残念そうにしながら笑みを返す。

「そうですか……忙しいんですね」
「そうですわね。忙しいのは、いいことですわ」
「はい。でも、ランコさん」
「なに?」
「ツバキお姉ちゃんに会ったら、あんまり無理しないで、って伝えてください。お姉ちゃん、すぐ無理するから」
「存じてますわ。まあ、わたくしが言っても聞かないのがツバキでしょうけど」
「ふふ……そうですね」
「最近の調子はどうですの? 困ったことはなくて?」
「はい、大丈夫ですよ。お医者さまも、ずいぶんよくなってきたって仰ってますし」
「そう」
「それにみなさん、やさしい人ばかりですし。お友達もできたんです」
「そう、それはよかった」

 笑うコウメちゃんに、ランコさんも目を細める。
 二人はしばし取り留めのない話をしていた。

「さて、わたくしはそろそろ、おいとましますわ」
「はい、すいません、あたしに付き合ってもらっちゃって」
「付き合ったんじゃありませんことよ。わたくしが好きで来ているだけですから」

 そういうとコウメちゃんはまた嬉しそうに笑う。

「またいらしてくださいね」
「気が向いたら参りますわ」

 そう言ってランコさんは駐車場に向かった。
 ボクもその後をついて行く。
 聞きたいことはいくらでもあった。

「ねえ、ランコさん。あの娘は? ツバキの妹さん?」
「いいえ、従妹、ってことになるのかしら」
「いとこ?」
「そう、ツバキのお父様の妹の娘……おわかり?」
「あ、はい」

 そういえばツバキの家族関係なんて全然知らない。
 あんまりそういう話をしていない。
 かくいうボクが自分の家族のことをなにも語ってないわけだし。
 なにより、ツバキも聞いてこない。
 するとランコさんはポツリとつぶやくように言った。

「ツバキは両親を早くに亡くしていてね」
「え?」
「代わりに彼女を育てたのが叔母と義叔父なんですわ」
「そう……だったんですか?」
「その叔母さんと義叔父も、過労がたたって数年前に亡くなりました」
「過労って……」
「彼女――コウメさんの病がもとなの」
「コウメちゃんが? でもどうして?」
「彼女の病は現代医学じゃ治らない。生きながらえさせるのにも、多額の資金が必要になる。彼女の両親はその医療費を稼ぐために無理がたたって……」
「そう……だったんですか。でも今はどこの医療どんどん発展してますし、きっと……」
「いつか治る……と言いたいのですけどね」
「え?」
「コウメさんの病、発生率がものすごく低い病なの。今まで症例は彼女を含めて四人しかいない」
「そんな病気あるんですか?」
「Y―29000357。名前すら付けられてない病なのよ」

 たしかに人が宇宙に出てから病の数は爆発的に増えた。
 星ごとの特有の病原菌による病。
 宇宙空間に滞在することで発現する病。
 感染拡大(パンデミック)が懸念されるものにはもちろん名前が付けられる。
 ただ病の数は多すぎて、少数の人間にしか発現しない病には数字がふられるのが実情だ。
 今まで発症したのが四人しかいないのなら、そうなるだろう。

「少数にしか発現しない病では、どこも研究してはくれません。どこも研究員はひっ迫しておりますから……」
「そうですよね……優先されるのは、もっと多くの人が、かかる病ですもんね」
「だからコウメさんの病気を治療してくれるのは、この宇宙広しと言えど、ここしかないの」
「そうだったんですか……」

 ボクはやっぱりなにも知らなかった。
 ツバキがあんなにお金に執着する理由も。
 あんなに必死で働いている理由も。

「でも、だからってどうしてあんなひどい仕事まで……」
「それはね、ほら」

 ランコさんはそう言って壁に張られたプレートをさした。

 『STRIX医療財団』

 そういうことだったのだ。
 ツバキが本当にヤバい仕事を断れない理由。
 彼女はSTRIX社に弱みを握られていたのである。
 だってコウメちゃんの病を研究しているのはここしかない。
 だから、他に転院させるわけにもいかない。
 するとランコさんは急に肩の荷でも下ろしたように、溜息を吐く。

「さぁてと、もう一つ荷運びをしないといけませんわね。世話の焼ける荷物を」

(つづく)


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次回6月20日更新予定


著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭


©OSO


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