【第24回】運び屋椿

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Episode3 権力の傀儡(6)

 ツバキの運転する大輪丸が銀河を駆ける。
 心はいつも平静だ。
 今までだって一人でやって来た。
 いくつもの困難があっても、一人で十分だった。
 しかし今はどうしてだろう?
 心には不安があった。

 カエデと過ごしたのはそれほど長い時間ではない。
 しかし今はもう、ツバキの仕事になくてはならない人間になっていた。
 それを一人になって痛いほど実感する。

 それにしても、リンドバーグが言っていたことはなんなのだろう?
 それがずっと頭の隅に引っかかって離れない。
 彼の仕事を邪魔する人間?
 あれほどの大企業でもそんなことが起こるというのか?

 ツバキのように個人で仕事を取る人間にとっては理解するのは難しい。
 気が付くとクァンコール宙域に入っていた。
 この辺りは比較的安全な地域である。
 盗賊の心配もなければ、内紛の心配もない。
 下手に裏街道を使わない限りは、安全に目的地まで行けるだろう。
 助手席に座らせているミミーは、寝息を立てている。

 ――ミミーか。

 カエデのつけた名前がもう定着しているような気がした。
 あの長い名前を思い出そうとは思わない。
 クァンコール宙域にある星々はほとんどが河沙公司の所有するリゾート惑星。
 いくつかは、農園や牧場など、この宙域で消費される物を生産している。
 そういう意味合いでは自給自足が確立されている。
 同時にリゾートとしての外貨獲得にも成功。
 河沙公司にとって、かなりの資金源であることは確かである。
 そんなクァンコール宙域の中間料金所が見えてきた。
 少額ではあるが通行料が必要である。
 この宙域でのラインマーカー修繕などの費用稼ぎである。
 ETCはセットしてあるので、そのまま通り抜けられる。
 徐行でゲートを抜けると、料金が表示された。
 大した額ではない。
 宙域各所でよくある光景なので、それほどなにも感じはしなかった。
 だが、その先に控えていたものに、ツバキは思わず目を見開く。
 CPOの検問が設置されていたのだ。

「……どうして?」

 疑問を口にしながら、急いでミミーの乗っている助手席の下にあるレバーを引く。
 ミミーが座席ごと、後部荷台に移動した。
 これで外目には見えない。
 だが荷台のチェックをされたらまずい。
 車の列に並びながらツバキは窓を開けた。
 誘導係を見つけて、

「ねぇ、これ、なんの検問?」
「違法な狩猟禁止生物を運んでるってタレコミがあったんだよ。まったく、こっちはヒマじゃねぇんだ。ほら、てめぇもさっさと列に並べ」

 ツバキは思わずドキリとした。

「へぇ、どっからのタレコミ?」
「はあ? よく知りゃしねーよ。河沙公司の上のお偉方が無理やり出動要請してきただけだ」
「……ふぅん」
「そのせいで、俺たちは緊急出動だとよ……ったく」

 大まかな構図は見えた。
 STRIX社のリンドバーグの思惑すらも。

 つまりSTRIX社の中に、河沙公司とつながる裏切者がいるということ。
 ツバキはすぐに大輪丸に取り付けられた通信機の受話器を取る。
 ダイヤルを回すと、コール音。
 向こう側はすぐに出た。

『やぁ、ツバキ君。御機嫌はいかがかね?』

 J・W・リンドバーグ。
 彼はツバキから連絡が来ることがわかっていたかのように、笑いを漏らす。
 ツバキは冷静に彼に問う。

「おい、こうなることはわかってたのかい?」
『こうなること? さてなんのことかな?』
「とぼけてんじゃないよ!」

 すると受話器の向こうから、リンドバーグがクククと笑った。

『仕方ないだろう! 巨大な組織の中には裏切者が必ず出る! 君のおかげで無事、その裏切者を見つける事が出来たよ。ツバキ君が出発してすぐに、河沙公司へと連絡を取った幹部四名をこちらは確保した。お手柄だよ!』
「それであたしは、トカゲのしっぽ切りですか?」
『膿を出すには、それなりの策が必要なのだ。我々が痛みをともなわず、それでいて最大限に動いてくれる手駒! わかるだろう、この世の酸いも甘いも知っている君なら』
「ええ、知ってますよ。人を人とも思わない、ゴミのような人間がいるってことはね!」
『おいおい、怒らないでくれたまえよ。君の尊い犠牲は、従妹の少女の命を確約するものなんだ。むしろ感謝しても……いいんじゃないの?』
「……っ」
『ククク……カカカカッ! いいぞ、すごくいい! その沈黙! 沈黙の中の文脈! 読める! 読めるよぉ! 君の悔しい気持ちが痛いほど伝わって来る! なにも言えないだろう? この僕になにも言えない、その非力さ! すばらっ―――しいっ!』

 受話器の向こうで踊っているかのごとく、リンドバーグは喜びをあらわにした。
 ツバキはなにも言わない。
 なにも言えない。
 永峰コウメの命を握られている限りは。

『安心したまえ、君の従妹コウメちゃんは、このSTRIX社が責任をもって看護するから! 君はちゃんと獄中で深い反省をして出てくれば、それでいいのだから! それではさよなら! アォフ・ビーターゼン!』

 通信は切れた。
 ツバキはしばし動くこともできなかった。
 後ろの車がクラクションを鳴らしている。
 前へ進まねば。
 あの検問まで。
 そして―――。

「ちょっと、なにをボウっとしてますの?」

 突如聞こえた知る声に、思わず顔を上げる。
 そこにはランコの高慢で得意げな、いつもの顔がのぞいている。
 いつ間にかランコのトラックが隣に並んでいたのである。

「後ろがつかえていてよ」
「あ、ああ……」
「しかもッ! なんですの、そのしょぼくれた顔は? わたくしの知っている永峰ツバキは、そんな顔はしなくってよ」
「………うるさいよ」

 やはり返す言葉に力はなかった。
 あの検問の機器。
 おそらく、生物探知機である。
 後部の荷台にあれをかけられれば一巻の終わり。
 おそらくは二十年以上の懲役となるだろう。
 そうなれば、コウメとはもう会えない。
 彼女はSTRIX社の医療コロニーから出ることができないのだから。
 それを考えると、胸が痛くなった。

「ランコ、あのさ……」
「なんですの?」
「コウメのこと……お願いする」

 するとランコは鼻で軽く息をする。

「お断りですわ」
「……え?」
「あなたの御親族でしょう? あなたが会いに行かずに、誰が会うんですの?」
「いや、だから……」

 言い終えるよりも先にランコはトラックのアクセルをふかすと、先へ行ってしまった。
 ツバキは覚悟を固めて前進。
 検問の警察官たちは、手持ちの生物探知機をツバキの荷台にも宛てた。
 案の定、探知機は警報を鳴らしながら赤く点灯。

「生体反応が出てるな。後ろを確認する。ロックを解除しろ」

 警察官に言われ、ツバキは無言で従った。
 もう逃げ隠れしても仕方がない。
 そんな思いだったからだ。
 その時、後部の荷台から耳慣れた声が聞こえる。

「え? なに? いきなり開けないでよ、びっくりした!」

 ハッとしてツバキは息を呑み、荷台内のようすをモニターに映した。
 そこには機械の整備をしている、カエデの姿があったのである

(つづく)


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次回6月27日更新予定


著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭


©OSO


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