【第25回】運び屋椿

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Episode3 権力の傀儡(7)

 はぁ~……。
 危機イッパツ! 
 ぎりぎり間に合った……。
 ランコさんに乗せてもらったトラックが、公道、裏街道を爆走してどうにかツバキの大輪丸に追いつく。
 んで、ランコさんはツバキの隣にギリギリ寄せてもらった。

 そこから、二人が話している間に、ボクが荷台に忍び込んだのだ。
 スレスレなくらいにトラック同士を寄せてもらったので、CPOの人たちも、ボクがのりこんでいる所は見てないと思う。
 まあ別に見られてもどうってことないけど。
 んで、ボクを発見した警察官の皆さんは、

「あ、えっと……生物反応が……」
「ボクでしょ?」
「えっと……」
「ボク、ロボットじゃないし。確認する?」
「いや……………けっこう」

 という具合で不問となった。
 まあ、今回は荷台に武装も積んでないしね。
 こんなガラガラの車両のどこに他の生き物を隠すのかって状態。
 荷台の扉を閉めて、鍵をかけて、これで万事オッケー。
 ちなみにミミーだけど………。

「みー!」

 ボクの服の中に隠れてもらってた。
 ちょっと不自然なくらいに胸がおっきかったけど……。
 まあ警察の人も女の子をひんむいて裸にはしなかったので一安心。
 車が走り出し、しばらくした頃、スピーカーからツバキの声が聞こえてきた。

『もう、CPOはいないよ』

 助手席に来れば、ってことなのだろう。
 素直にそう言えばいいのに。
 ボクは助手席に座って、レバーを引く。
 前部座席に移動すると、ツバキが前を見て運転してた。
 なにか言葉を探すように、もじもじしていたが、おもむろに、

「……ありがとね」

 と小声で言った。
 まあ、お礼を言われるようなことは……してるんだけどね!
 それはさておき。

「ランコさんからいろいろ聞いたよ」
「ランコから?」
「コウメちゃんのこととか」
「………ああ、あいつ」

 ツバキは困ったような顔をして頭をかいた。

「話したくないなら話さなくてもいいけどさ。でもツバキ」
「なに?」
「もうちょっとボクに頼ってくれてもいいんだよ。だってボクはツバキの助手なんだから」

 するとツバキの顔に、ようやく笑みが浮かんだ。

「ふふ……あはは」
「えー、なんで笑うのさ」
「ふふふ。そうだね。うん、あんたをもっと頼ればよかったね」
「そうだよ。まあ運び屋の仕事はあんまりよくわかってないけど、でも言ってくれれば力になるんだからさ」
「そうだね。悪かったよ。今回は降りていい、なんて言って」

 彼女の素直な謝罪に、ボクは少しうれしくなった。
 本当に信頼してくれている。
 それがわかったような気がしたからだ。

「ところでツバキ」
「ん? なに?」
「ミミー、ホントに密輸しちゃうの?」
「……そうだねえ。ちょっと考えがある」

 そう言ったツバキは、イタズラをする少女のような笑みを浮かべてた。
 それはいつものツバキの笑顔だ。

「なになに? なにすんの?」
「とっておきのこと! さ、グズグズしてらんないよ! 行くよ、相棒!」

 そう言ってツバキは全力でアクセルを踏み込んだ。
 えへへ。
 相棒だって。

※※※※

 先方にミミーを受け渡したボクたちは、すぐにその場を後にする。
 ラインマーカーの引かれた公道を走り、その惑星の大気圏を離脱した頃。
 ファンファンファンファン!

 パトランプを煌々と照らした、CPOと動物管理局の車両とすれ違った。
 違法取り締まり生物を飼っていれば、当然現行犯逮捕だ。

「ありゃあ、すごい台数だね。こりゃ大捕物だ」
「そうねえ。まあ、他にも違法な生き物いっぱいいたみたいだし、こりゃ実刑だろうね」
「そっかぁ、どこの誰が通報したんだろうねえ」
「さあ、ねえ」

 白々しいくらいのツバキのセリフに、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
 これでミミーは元の星に帰ることが出来るだろう。
 ちょっとさみしいけど、ミミーにとってはその方がいいのだ。

※※※※

 それから一週間もしない頃のことである。
 交通課の進藤マコトさんに、いつもの木星軌道上のパーキングステーションで会った。
 彼は面倒そうな顔でツバキの元にやって来ると、

「おい、ツバキ。知ってるか?」
「なにを?」
「先日、違法生物の売買で貴族が捕まったんだ」
「へえ、そうなんだ」

 ツバキは素知らぬ顔である。
 ところがマコトさんはツバキをジッと見る。

「おまえその時、クァンコール宙域の方に行ってたよな?」
「行ってたかな」
「なにしに?」
「リゾートを楽しみに」
「……………」

 うわぁ、マコトさんの目がめっちゃ怪しんでる!

「そのコレクターの犯罪が露見したのは、どっかの女からの通報だったそうだ。絶滅危惧種の売買をしている現場を見た、と通報が入ったらしい」
「へえ、勇気ある女性のおかげで、宇宙にまた一つ平和が訪れたんだね!」
「おまえじゃないよな?」
「……なに言ってんの?」

 沈黙。
 ひゃあ、ボクは紅茶でも飲んでごまかそう。
 ウソは苦手ですから。
 するとマコトさんは、ひとつ溜息を吐く。

「まあ、どっちにしても現行犯じゃなきゃ密輸犯の逮捕は出来ないからな」
「そうそう」
「とりあえず、そういうことにしておく」
「どういうことか、さっぱりだけど、まあ良きにはからって」
「その代り………」
「な、なに……」

 マコトさんは、机の上にドンとカゴを一つ置いた。

「おまえにはこれを輸送してもらう」
「は?」

 そう言ってカゴを開けると中からはなんと、

「ミミー!」

 ボクは思わず名前を呼んでから、ハッと口を押さえた。

「ミミー?」
「あ、えっと、耳ぃが、長いなぁなんて?」
「………」

 マコトさんがジト目でこっちを見るので、ボクは視線を逃がす。
 するとマコトさんは、やれやれとばかりにため息をついて、

「この生物を輸送して欲しい」
「運ぶって……ロストニアに……?」

 しかしマコトさんは首を横に振る。

「残念ながらロストニアはダメだ」
「なんで?」
「あそこは生態系が乱れすぎて、ロストーニア・プログラスの生息には適さないって、専門家が言っていたんでな」
「なに? 住めない環境になってんの?」
「住めないわけじゃない。ただ他の生物に捕食されて絶滅する」
「ああ、そういうことか……」
「生物学者どもはみんな、コレを欲しがってるんだが、ちょっと渡したくないしな」
「あいつら絶対解剖するでしょ?」
「そうなんだよ! 正直、学者に渡すのが一番あぶない!」
「………で、あたしらはこの子をどこに運べばいいのよ?」
「ロストニア以外で、この生物が適応できる星」
「無茶言わないでくれる!?」
「あのなあ! おまえのためにこっちはどんだけ走り回ったと思ってんだ!」
「なにしに走り回ったの?」
「それは――………!」

 言いかけたマコトさんは、とっさに口をつぐむ。
 もしかしてマコトさん、今回の件にツバキがかかわってると知って、CPOの手が及ばないように奔走してくれたのでは?
 だって、ほら!
 前にツバキの様子がおかしかった時にも、なんか気にしてくれてたし。
 ふふふ……マコトさん、そんなにツバキのために。
 まだまだボクの思惑は終わっていませんな。

「とにかく、これはCPO権限で依頼する! 断るなよ!」
「はぁ!? そんな権限なんてないでしょ、CPOにっ!」
「うるせぇっ! いいな!」
「横暴でしょうが、金くらい払いなさいよ!」
「誰が払うか! 違反切符でおまえに払わせてやるよ!」
「やってみろ! ウスノロ!」

 あ~あ、結局色気のない闘いが始まってしまった。

「とにかく! ちゃんと運べよなツバキ! これ、銀河連盟からの輸送許可証。それのことでなんかありそうになったら、これ見せろ」

 マコトさんは輸送許可証を机に置く。
 ツバキの方は机に肘をついて、ボクに困ったような顔を作って笑いかける。

「はぁ……だってさ。どうする?」

 ボクの答えは決まってる。

「つ、連れてく!」
「ということみたい。マコト君の依頼、引き受けますよ」
「はいはい、それはありがたいことで」

 やれやれ、といったようすで、マコトさん肩を落とした。
 ミミーはマコトさんの手を離れると、ぴょんと飛んでボクの胸に飛び込んで来た。

「みー!」
「おかえり、ミミー」

 新しい友達が増えた。
 これから楽しくなるなぁ。
 えへへへ………。

※※※※

『もしもし、ツバキ君』
「――……」
『やってくれたね。お得意さんはカンカンだよ?』
「――………」
『彼は莫大な額の保釈金を積むことになってしまった。しかし! だが! それは自業自得。君の責任ではない』
「―――………」
『それどころか、ツバキ君は、あの絶後の危機を見事のりこえた! これは称賛に価する! 素晴らしい!』
「――………」
『敗北者のあがきは、心を打つね! 生まれながらの敗北者が必死に生きようとするその姿! 最っ高っさ!』
「あたしゃ、負けちゃあ、おりません」

 腹の底に力が入る。
 背筋を伸ばし、胸を張る。
 そしてツバキの声がまっすぐに、力強く響き渡った。

「こちとら人の道行く運び屋稼業。きたねえ道理を金の力で行くあんたらにゃあ、負ける理由はありゃしません!」

 リンドバーグは一瞬、あっけにとられる。
 だがすぐに、高らかに笑い声をあげた。

『クカカカカッ! それは楽しみだ! 虫けらの無駄で無意味な全力のあがきを、小指ひとつで捻り潰すのが僕は大好きだ! やれるものならやってみたまえ! やれるもんなら……な』

 通信が切れた。
 暗い部屋でツバキはジッと受話器を見つめる。
 その目は赤く炎のように揺らめいた

(おわり)


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著者:内堀優一
原作:Original Star-IP Office
デザインコンセプト:斎藤純一郎、赤根健良
アニメーションキャラクターデザイン:鈴木竜也
アニメーションメカデザイン:田口栄司
企画協力:松田泰昭


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