【第03回】魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸
「ぼく、戦部ワタル! この前、これまで一緒に冒険してきた『龍神丸』がぼくを迎えに来たんだ。実は最近、創界山に謎の黒い霧が現れて、大ピンチなんだって。そこでぼくたちはまず、黒い霧から身を守るための『聖水』を求めてシュワワ村に向かったんだ。ハッキシ言って、今日もおもしろカッコいいぜ!」
第2話「み~んな欲しがる、ラー湖の聖水!」Aパート
ぼくがヒミコと一緒にシュワワ村へと続く平原を歩いていると、後ろからいきなり先生のバカでっかい声がのどかな風景に響き渡った。
「うわあああああああー!!!」
「先生、どうしたの!?」
あちゃ~……先生ったら、思いっきりズッコケちゃってるよ。
「いや~、すまんすまん。足元に小さな小石が飛び出しておったのだ」
「もう、驚かさないでよ。てっきり、なにか大変なことが起きたのかと思ったでしょ?」
よく見ると……倒れた先生の手にはスマホが握られているじゃないか!
「もしかして、先生! 歩きスマホしてたの!?」
「いや、そのぉ……!」
「キャハハハ! おっさん、おもろいかお!」
ぼくがじーっと見つめると、シバラク先生は気まずそうに目を逸らした。
「ワタルよ……歩きスマホには危険を伴うゆえ、お主も心しておくことだ」
なんか雰囲気たっぷりに遠くの方を見ちゃってるけど、ミヤモト村の剣豪が『歩きスマホ』なんかで転んだって事実は変わらないんだからね。
「さぁ、急いでシュワワ村へ向かおうではないか!」
シバラク先生は微妙な空気を切り替えるかのように、また元気に歩き出した。
ぼくたちはようやく、シュワワ村に到着した。
思ったよりも小さな村だし、聖水が湧くラー湖はすぐに見つかりそうだ。
でも、どうしてだろう? この村、な~んか空気がピリピリとしているような気が……
まぁ、まずはとにかく聖水のことを村の人に聞いてみようかな。
「すみません。ぼくたち、この村にあるっていう聖水が欲しくて来たんですけど」
ぼくが尋ねた瞬間に、なぜかおじさんの顔が豹変した気がした。
「聖水だって……!?」
おじさんのその声に反応して、今度は村の人たちがぞろぞろと集まってきた!
「もしかしてキミ、聖水を持っているのか!?」
「なんで、お前みたいな子供が聖水を!」
「ふざけるな、みんな聖水が必要な時に!」
あっという間に、ぼくらは村の人たちに取り囲まれてしまった。
ぼく……そんなに変なこと聞いちゃったかな!?
「ワタルよ、これはただならぬ様子だぞ!」
「キャハハハハ! みんな、鬼さんみたいだね~」
そう言ってる間にも、村の人たちはじりじりとこちらに近づいてくる。
もしかすると、すでにみんな黒い霧にやられちゃってるのかもしれない。
「このままじゃ危ない! ヒミコ、ペッタン手裏剣だ!」
「はいよ~!」
ヒミコがぴょーんと元気に宙を舞う。
「シュッピ、シュップ、シュッパーッ!!!」
ヒミコは星形のやわらか~い手裏剣を軽快なリズムで投げていき、みんなの顔にくっつけていった。
「はぁ~、気持ちいい……」
そのまま村の人たちは、気持ちよさそうにコテンとその場で眠っていく。
「どーも、EXマンです! ヒミコちゃんの手裏剣は『ペッタン手裏剣』と言って、くっついた人を眠らせてしまう力があるのです。凄いですねぇ~」
ヒミコのおかげで、ぼくらを取り囲んでいた村の人たちはみんな眠ってしまった。
「みんな、いい子いい子!」
「ふぅ……助かったよ、ヒミコ」
「ワタル、しかし不思議だ。なぜ聖水が湧いていると言われる村で、このように村人たちが殺気立っているのか」
「オババは聖水が身を守ってくれるって言ってたのにね」
すると遠くの方でぼくらのことを見ていた小さな女の子が、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
「もしかして、あの子も怒ってたりして……!?」
あれ? よく見ると、なにかを訴えるような目でこっちを見てるような……
「すみません、村のみんなのことを悪く思わないでください。悪いのは、ジョン・タンクーガーなんです」
「え? タンクーガーだって!?」
「ラー湖に湧いていた聖水を、あの人がぜんぶ独り占めしちゃったから……!」
「どういうこと……?」
女の子は苦しそうに胸を押さえながら、小さく俯いた。
「創界山に不気味な黒い霧が出たせいで、みんな不安になってラー湖の聖水を欲しがってるの。それなのに、タンクーガーが突然湖のほとりに工場を建てて、私たちには聖水が手に入らないようにしてしまったのよ……」
「そんなことしたら、村のみんなが困るじゃないか!」
「タンクーガーはそうやって独り占めした聖水に、とんでもない値段をつけて売っているの」
「まったく、ひどいことするなぁ!」
「だから最近では聖水の話になるとみんな、目の色が変わっちゃうようになって……」
まさか、そんな事情があったなんて……
こんな状況を放っておくわけにはいかない!
「わかった、それならぼくたちがタンクーガーをやっつけてあげるよ!」
「え? でも、そんなことをしたらあなたたちが危険に……」
ぼくは不安そうな女の子の目をしっかりと見つめた。
「任せて! こう見えてぼく、救世主なんだ!」
その言葉を聞いて、女の子はようやく笑顔を見せてくれた。
「ありがとうございます。それなら今、タンクーガーはラー湖の工場にいるはずです!」
「キャハハハハ! ラッコ! ラッコ!」
ヒミコは突然、ラッコの格好になって走り出した。
も~、緊張感がないったらありゃしないぜ。
ぼくたちが村のはずれにあるラー湖のほとりにやってくると、なにやら甘~い香りが漂ってきた。
「なんだか、ずいぶんといい匂いがしてるね……」
女の子の言っていた通り、確かに大きな工場が建っていた。
湖には誰も手が出せないように、見事な鉄の壁で覆われている。
「ワタルよ、どうやらこの甘い香りは聖水のものらしい」
工場の門の上には『シュワっと甘~い、ラー湖の聖水!』というド派手な看板がかかっていた。
「とにかく、みんなで工場の中に入ってみようよ!」
ぼくたちは工場の裏口にある小さな扉から中へと侵入した。
まさかカギが開いてるなんて……不用心で助かったよ。
「ロボットさんだ!」
ヒミコの言う通り、工場の中にはたくさんの人型ロボットたちが液体をペットボトルに詰める作業を行っていた。
もしかして、あれが聖水なのかな?? シュワシュワ泡立ってて、なんだか美味しそうだけど……
「いーぞ、お前たち! 働け! 働けーいっ!!!」
工場の上の階から小さな男が身を乗り出してロボットに指示をしている。
ジグザグにとがった鼻に、あの血走った目……タンクーガーだ!
「みんなが不安になれば、聖水の値段はもーっと高くしても売れる! そしたら、俺様はもーーーーーーっと大金持ちだっ!!!」
タンクーガーの甲高い笑い声が工場中にこだました。
「おい、タンクーガー! いい加減にしろ!」
「お前は……ワタル!!! また邪魔しに来たのか~っ!? 」
「村の人たちはみんな、聖水が手に入らなくて困ってるんだぞ!」
「や・か・ま・しいっ! 金が払えないヤツには、そこらへんの泥水でも飲ませておけばいいのだ!」
「人の情けを知らんヤツめ……拙者と戦神丸が成敗してくれるわ!」
そう言って、シバラク先生は胸のポケットから勢いよくスマホを取り出した!
「先生、遂にスマホで戦神丸を呼ぶんだね!」
「任せておけ! ん……あれ? 画面が真っ暗なままだ」
「もしかして、充電が切れちゃったんじゃないの!?」
「しまったー! ここに来るまでにいじりすぎてしまった!!!」
「先生のカバ……じゃなくて、バカーっ!」
「武士の心得として書き留めておく。これで同じ失敗をすることはない!」
あ~もう、先生ったら筆でメモを取ってる場合じゃないってば!
「ロボットよ、さっさとワタルたちを退治してしまえーっ!!!」
タンクーガーが工場のロボットたちに声をかけた。
「ワタル……ジャマ……タイジ……スル!」
周りにいたロボットたちの目がピカッと赤く光ったと思ったら、一斉にこっちへ向かって来た!
(つづく)
著者:小山 真
次回4月21日更新予定
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