【第06回】魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸
第3話「黒い霧のイヤ~な魔神!」Bパート
「龍神丸、危ない……っ!」
「野牛シバラク流、バツの字斬り!!!」
シバラク先生が乗った戦神丸が颯爽とぼくたちの前に現れて、ガッタイダーが振り下ろした鎌を二つの刀で受け止めた。
「厳しく深き武士の道、燃えて進むは大和の心! 剣部シバラク、戦神丸と共にただいま参上!」
「先生、かっこいい!」
「ふっ……我ながら、しばらくぶりに決まったぞ……シバラクだけに。なぁ~んちゃって!」
しかしガッタイダーはパワーで上回り、戦神丸を吹っ飛ばしてしまう。
「うああああああああああー!!!」
戦神丸はそのまま岩壁に激突してしまった。
「先生っ!」
ダメだ、あれじゃ先生たちはすぐに動けそうにない……!
「ワタル、私たちもいくぞ!」
「うん、龍神丸!」
「おう!!!」
「龍雷拳 ――――――――――――っ!」
ぼくの声に応えて龍神丸の両肩に描かれた龍の模様が激しい雷となり、ガッタイダーへと一直線に向かっていく。
ガッタイダーは龍雷拳をもろに受け、その全身に猛烈な電流が走った。
そのまま力なく地面に両膝をつき、機体から静かに煙を立ち昇らせる。
この様子を見る限り、もうピクリとも動けないみたいだ。
「やったぞ、龍神丸。ぼくたちの勝ちだ……!」
「ワタル、油断するな!」
その時ガッタイダーの目が再び光り、大きな鎌をこっちにぶん投げてきた!
「そんな……っ! うわぁ!!!」
しまった! 龍神丸の左肩に鎌が見事に突き刺さってしまった。
「うう……っ! 龍神丸、大丈夫!?」
「あぁ……問題ないっ!!!」
龍神丸は自らの力で肩に刺さった鎌を引き抜いた。
頼もしい言葉とは裏腹に、どう見ても大きなダメージを負っている。
「あれを見ろ、ワタル!」
「え……?」
見ると、ガッタイダーが静かに両手を広げている。
「…ド…バ…ズダー……」
またあの不気味な声がしたと思ったら、周囲に漂っていた黒い霧がガッタイダーの全身に吸収されていった。
そして再び、ガッタイダーの目が凶悪な光を放つ。
「もしかして……あの黒い霧で回復したっていうのか?」
「どうやらヤツを倒すには、一撃で止めを刺す必要がありそうだな」
「でも、そんなのどうやれば……」
「キャハハハハ! 出来たのだー!」
龍神丸の足元にヒミコが楽しそうに駆け寄ってきた。
「ヒミコ、なにやってるんだよ!?」
「幻神丸を作ってみたのだ!」
ヒミコの手には、泥で出来た不細工な幻神丸が握られていた。
「お前なぁ……こんな時に遊んでるヤツがいるかよ!」
「だったら、みんなも遊ぶのだっ!」
ヒミコはピョーンと飛んで、ガッタイダーの近くに着地した。
「ヒミコミコヒミコミコ……忍法、ドロドロありじごくの術~!」
そして素早く印を結び、ガッタイダーの方へ両手を向けた。
「なぁヒミコ、さすがにお前の忍法が通じる相手じゃ……」
「ワタル、意外とそうでもないらしいぞ!」
「え……???」
ガッタイダーの足元がありじごくのようになって、すでに膝まで埋まっているじゃないか。
「えぇ~! そんなのありじごく~!?」
「ニャハハハハ! ヒミコ、すっごーい!」
ガッタイダーも必死にもがいているが、ヒミコの作ったありじごくからは抜け出せそうにない。
「今だ、ワタル!」
「よし、龍神丸!!!」
ぼくは勢いよく頭上に勇者の剣を掲げた。
「必殺、登龍剣 ――――――っ!!!」
龍神丸がぼくと一緒に剣を振り下ろして、ガッタイダーを真っ二つに斬り裂いた。
「ドバ……ズダー……」
ガッタイダーはもとの黒い霧に戻り、風に流されていった。
「ワタル、えらいえらーい!」
「ありがとう、ヒミコのおかげだよ」
先生の乗った戦神丸も、ようやく戻って来た。
「今回は、なんとも手強い相手であったな」
「先生、大丈夫?」
「心配をかけてすまなかった、拙者と戦神丸ならまだまだ動けるわい!」
「よかった……!」
だけど、ぼくはどうしてもさっきの不気味な声が気になって仕方がない。
「リュウ……ジ……マ……」
「あ、またあの声だ!」
「リュウ……ジン……マル……」
「もしかして、龍神丸を呼んでるの? おい、お前はいったい何者なんだ……っ!」
それと同時に、ぼくたちの間を静かに風がすり抜けて行った。
「気をつけろ、ワタル!」
「どうしたの、龍神丸?」
すると……辺りに漂っていた黒い霧が、一か所に集まってブラックホールのような巨大な穴になり、猛烈な風と共に周囲のものをドンドンと吸い込んでいった。
「キャハハハハ! おもしろいのだ~!」
「ヒミコ……!」
「あ~れぇ~!!!」
風に飛ばされて巨大な穴に吸い込まれそうになったヒミコを、龍神丸が間一髪のところで掴んだ。
「龍神丸、ヒミコをしっかりつかんでて!」
「おう!」
巨大な穴はさらに力を増して、黒い霧を吸い込んでいく。
さすがの龍神丸と戦神丸も、飛ばされないように必死に踏ん張っていた。
「もう、なにがどうなってるんだよ……!」
すると吸い込まれた黒い霧が積乱雲のようにモクモクと成長していき、巨人のような姿に変化していった。
「……ウ……ジン……マル……!」
この地鳴りのような声を聞いただけで、無性に胸がざわついてくる。
まさか、こいつが創界山に出た黒い霧の正体なのか……!?
「ワタル、これはとんでもない相手だぞ!」
「……リュウ……ジン……マル!」
巨大な人型の黒い霧の両目にあたる部分が静かに光を放った。
こんなヤツが相手だなんて、怖くないって言ったらウソになる。
でも、創界山のみんなを守るためにはぼくが逃げるわけにはいかないんだ。
「黒い霧の化け物め! この救世主ワタルが相手だ!」
ぼくは自分を奮い立たせるために、精一杯の声を出した。
大丈夫。龍神丸と一緒なら、どんな敵だって負けないさ……!
(つづく)
著者:小山 真
次回5月15日更新予定
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