【第07回】魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸
「ぼくたちが創界山の麓に到着すると、黒い霧の中からいきなりガッタイダーが現れた。そこでぼくとシバラク先生は龍神丸と戦神丸に乗って、謎の声が操るガッタイダーと闘うことに。ぼくたちはヒミコの忍術に助けられ、なんとか勝つことが出来たんだけど……今度は、巨大な黒い霧の化け物が現れたからもぉ~大変! ハッキシ言って、今日もおもしろカッコいいぜ!」
第4話「霧の中の大決戦!」Aパート
恐ろしい巨人のような姿をした黒い霧の化け物は、その赤い目に禍々しい光を宿している。
「……リュウ……ジン……マル……」
まるで地鳴りのように低く恐ろしい声を上げながら、その手をこちらへ伸ばしてきた。
「よけて、龍神丸!」
「おうっ!」
龍神丸と戦神丸が勢いよくジャンプしてその手を躱し、黒い霧の化け物から距離をとった。
「あいつ、いったい何をするつもりだ!?」
「気を付けろ、ワタル。なにやら、ただならぬ力を感じる……」
「あちしにお任せなのだ!」
ヒミコは龍神丸の掌の上から元気にジャンプし、黒い霧の化け物の近くに体操選手も驚くくらいの見事な着地をして見せた。
「ヒミコミコミコ、ヒミコミコ! 忍法、スッポンバキュームの術っ!」
するとヒミコの横に、どこからともなく大きな亀の形をした巨大掃除機が現れた。
「スイッチ、オンなのだ!」
亀の形の巨大掃除機がガバッと大きく口を開けたと思ったら、うなりを上げて周囲の黒い霧を吸い込み始めた。
「キャハハハ!!! きゅいーん! きゅいーん!」
「ええ!? そんなのアリ~っ!?」
「いや、黒い霧に巨大掃除機とは妙案かもしれんぞ!」
しかし、激しく巻き起こる風を前にしても黒い霧の化け物はびくともしないでいた。
「……ドバ……ズダー……」
その不気味な声と共に黒い霧の化け物の真っ赤な目が凶悪に光り、猛烈な衝撃波でヒミコを亀の巨大掃除機もろとも大空へと吹っ飛ばした!
「あじゃぱーーーーーーーーーっ!!!」
「ヒミコ!」
ヒミコは猛スピードで空のかなたへ飛んで行き、あっという間に見えなくなってしまった。
「…ド…バ…ズ……ダー……」
巨大な黒い霧の塊は、まるで獲物を狙うように凶悪な眼差しを再びこちらへ向けてきた。
「ワタル、気を付けろ!」
「うん、先生!」
龍神丸と戦神丸が剣と刀を力強く構えて、黒い霧の化け物と対峙した。
「…リュ…ウ……ジン…マル……」
黒い霧の化け物は静かに蠢きながら、再び真っ赤な両目を光らせた。
この化け物からは不思議なくらい『命の力』みたいなものを感じない。
どうしてだろう……こうして対峙しているだけでも、ぼくの心の中にどんどん不安が広がって行くみたいだ。
この化け物はいったい、なんなんだろう……
「たっだいまーっ!!!」
ヒミコのあっけらかんとした声が大空に響き渡って、ぼくらに迫っていた不安は見事に吹き飛んだ。
「あれ? ヒミコ??」
黒い霧に覆われている上空に何かがキラリと光ったと思ったら、空から幻神丸が流れ星のように輝きを放ちながら飛んできた!
「どっこいしょーっ!」
ヒミコの乗る幻神丸はドスーン!と力強い音を上げて、豪快に着地した。
「はぁ~、おもろかった!」
「さすがは、ヒミコ。無事のようだな!」
「よし、みんな。力を合わせてアイツと戦おう!」
「……ドバ……ズ……ダー……」
黒い霧の化け物が大きく両手を広げると、周囲の空気が激しく揺れ始めた。
「ん? あれは……っ!」
黒い霧の化け物は全身からゆっくりと霧を放ち、次々と見覚えのある魔神を生み出していった。
その中にはアイスホッケー選手みたいな魔神、頭にネジの刺さったフランケンシュタインみたいな魔神、ツタンカーメンみたいな魔神もいたりして、ハッキシ言ってなかなか手強そうだ。
どの魔神も黒い色をしていて、さっきのガッタイダーのように不気味な雰囲気を漂わせている。
ずらっと並んだ黒い魔神の目が、一斉に赤く光を放った。
「来るよ、先生!」
「ここは拙者が先陣つかまつるっ!」
戦神丸と先生が猛然と黒い霧の化け物に飛びかかった。
「野牛シバラク流、バツの字斬り!」
戦神丸が黒い魔神の一体に対し、二本の刀で×の字に斬りかかかった。
先生渾身の一撃で、霧から生まれた魔神がものの見事に霧へと戻った。
「さっすが、先生!」
「ワタル、ヒミコ、拙者のあとに続けぃ!」
「カバにつづけーい!」
「フッ、今日の拙者……なんかイケてるかもぉ~!」
その時、先生と戦神丸に黒い魔神が三体一気に襲い掛かってきた。
「うそ~ん、そんなのアリ~!?」
三体の魔神は一斉に戦神丸へ向かって強烈な一撃を放った。
「うああああああああーっ!!!」
戦神丸は大きく宙を舞って、遠くの岩壁に激突した。
「先生っ!」
「ヒミコ、いっきまーーーーーすっ!」
幻神丸が背中に背負った幻武手裏剣を手に取り、円盤投げの選手のようにグルグルと猛スピードでその場で回転し始めた。
「ぐ~るぐるぐるぐるっ! いたいのいたいの飛んでけーーーーーーーっ!!!」
黒い魔神の集団に対して、幻武手裏剣を豪快に投げつけた。
「ありゃりゃ? あちしもぐるぐるる~……」
ヒミコと幻神丸は勢いよく回りすぎたせいで、目を回してしまったようだ。
しかし、ヒミコが放った幻武手裏剣は勢いよく弧を描いて飛んで行き、黒い魔神たちを次々と霧に戻していく。
「いいぞ、ヒミコ!」
「私たちも行くぞ、ワタル!」
「よし龍神丸、炎龍拳だ!」
「おう!」
龍神丸が両手の間に大きな炎の球体を生み出した。
「炎龍拳 ―――――――っ!!!!」
残った黒い魔神たちに対して、龍神丸がありったけの力を込めて炎の球を放った。
炎の球は集まっていた黒い魔神たちの前で大爆発を起こし、巨大な火柱がその場に激しく立ち上がった。
燃え盛る火柱の中で、黒い魔神たちの影が霧のように散らばっていくのが見える。
「やったね、龍神丸!」
「油断するな、ワタル!」
「…ド…バ……ズ……ダー……!」
「え……?」
ぼくが不気味な声がした方へ向くと、黒い霧の化け物の目から放たれた真っ赤な光線が猛スピードでこちらへ向かってきた!
「ガードだ、龍神丸!」
「おう!」
龍神丸は両手を顔の前にクロスしてガッチリと身構えたが、真っ赤な光線の力はすさまじく、勢いよく吹っ飛ばされてしまった。
「うおおおおおおおおおおおおーっ!!!」
ぼくと龍神丸は猛烈な勢いで地面に叩きつけられた。
これは……さすがの龍神丸も無事ですむはずがない。
「くぅ……龍神丸、大丈夫!?」
「あぁ、まだ…………動ける」
「……リュウ……ジン……マル……リュウ……ジン……マル……!」
なんとか半身を起こした龍神丸のもとに、黒い霧の化け物が再び手を伸ばしてくる。
「龍神丸……危ないっ!」
「あいやしばらくっ」
そこへ戦神丸が飛んできて、刀を一閃! 黒い霧の化け物の腕を吹き飛ばした。
「大丈夫か、ワタル!」
「ありがとう、先生!」
「ワタル、元気だすのだっ!」
続けて、ヒミコの幻神丸も戻って来た。
「ああ……みんながいれば大丈夫さ!」
「だいじょーぶ! だいじょーぶ!」
「ワタル、たとえどんな強者であったとしても必ず一瞬の隙は生まれるものだと心得よ」
「一瞬の隙?」
「拙者とヒミコでチャンスを作ってみせる。おぬしと龍神丸であやつを倒すのだ!」
「わかった。でも、気を付けて!」
「フッ、ここで退いては武士の恥! 我々の『魂』を見せてくれるわ! 参るぞ、ヒミコ!」
先生と戦神丸が横を向くと、そこにはヒミコと幻神丸の姿が消えていた。
「あちしにつづけ~い!」
ヒミコと幻神丸はすでに、だいぶ先の方を元気よく走っていた。
「うそ~ん!!!」
大慌てで先生と戦神丸も駆けだした。
(つづく)
著者:小山 真
次回5月22日更新予定
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