【第19回】魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸

魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸

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第10話「刀を狙う、にくいヤツ!」Aパート


「拙者、剣部シバラク。宮本村に生を受け、剣一筋に生きてきた男でござる。
 先日、ワタルたちと創界山に現れたドバズダーと申す化け物を退治しに行ったのだが、その戦いの途中でどこかに飛ばされてしまったらしいのだ。拙者はたくさんの武士もののふたちがいる不思議な町で目を覚ますと、見目麗しい愛殿という女子おなごと運命的な出会いを果たしたのだが……なんと愛殿はからくり人形だったのでござる! 悲しき失恋の後、拙者はブリキントンに囲まれていた少年を助けると、なぜか救世主と間違われてしまった。こりゃあいったい、どぉいうことぉ~?」

 拙者が助けたのは、まだ年端もいかぬ体の小さな少年であった。

「私は塚原剣乃介と申します。お会いできて光栄です、救世主殿!」

 先ほどから、この子はなにか勘違いしておるようだな……

「すまぬが、拙者は救世主ではないぞ?」
「なにをおっしゃいますか! そのお姿は、どこからどう見ても   

 ――ぐうううううう~……

「…………っ!」

 し、しまった! 拙者としたことが、こんな小さな少年の前で腹の虫がなってしまうとは。
 武士は食わねど、高楊枝と申すのに……

「救世主殿、お腹がすいておられるのですね!? ならば私が、お食事をご用意させて頂きます!」
「え? 食事ぃ?」

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 ――トントントントン……

 屋敷に案内された拙者は、なんとも心地よい音の中にいた。
 台所に立った剣乃介殿は幼いにも関わらず、驚くほど器用に食材を切っている。

「これは見事な包丁さばきでござるな」
「ありがとうございます。昔から料理をするのが大好きなのです」
「ほう。剣乃介殿のようなご子息がおれば、ご両親もさぞやお喜びであろう」

 拙者の言葉を聞いた剣乃介殿が、ピタリと包丁の動きを止めた。

「実は先日、父上を亡くしたばかりなのです……ううぅ、えぐっ、ひぐぅ~!」

 なんと、せきを切ったように泣き始めてしまった。

「剣乃介殿……っ」

 慌てて屋敷を見回してみたが、お母上の姿もないようだ。
 すなわち、この広い屋敷に幼子がたったひとりで……
 剣乃介殿は幼い身の上で、ずいぶんと苦労をしておられるのだな。

「すまぬ……辛いことを思い出させてしまったな」
「う、ううっ……きっと今ごろ、父上も喜んでくれていると思います」
「お父上が……?」

 着物の裾で涙を拭い、剣乃介殿はようやく顔を上げた。

「憧れていた救世主殿に出会えたのですから!」

 こう喜ばれてしまっては、頭ごなしに否定も出来ぬな……

「剣乃介殿はなぜ、拙者を救世主だと思われるのだ?」
「それは……そうだ、私と一緒にこちらへいらしてください!」

 剣乃介殿に手を引かれてたどり着いたのは、屋敷に併設された道場であった。

「ここは父上から受け継いだ、剣術道場でございます」
「なるほど、お父上は剣術をしておられたのか……」
「はい! 救世主殿のような強い剣士でございました」

  剣乃介殿が嬉々として剣術道場の奥を指さした。

「あれは道場に代々伝わる掛け軸でございます!」
「ほう……」

 一段高くなった床の間の中央に、大きな一本の掛け軸が丁重に掛けられている。
 その掛け軸には赤い龍を背にして戦う二刀流の剣士の姿が描かれていた。

「これは救世主が描かれたものなのでございます。ここには確かに、シバラク殿と同じ勇猛な二刀流の剣士が描かれておるではありませんか!」
「確かに、それはそうだが――」

 掛け軸の下に視線を落とすと、龍の形をした柄が特徴的な真っ赤な剣が鎮座していた。

「これはまた、ずいぶんと立派な刀でござるなぁ……!」
「父より受け継いだ『赤龍の刀』でございます」
「ほう、では剣乃介殿も剣術をなさるのだな?」
「いえ……実は私は剣術が大の苦手で……」

 剣乃介殿はまた目に涙を一杯に溜め、顔を歪めた。

「ぐすんっ……ぐすんっ……本当は私も父上や救世主殿のような強い武士になって、この剣術道場を守りたいのです……ですが、うぅ……」

 こぼれ落ちる涙を拭いながら、剣乃介殿は話し続けた。

「今の私では、とても……!」
「剣乃介殿……」

 なにか拙者も力になれればいいのだが……

 ――ぐうううううう~!

「な、これはその……」

 拙者の腹の虫の音を聞いた剣乃介殿は涙を拭うと、パッと明るい顔になって言った。

「失礼いたしました! 急いで料理をご用意いたします!」

 剣乃介殿は大急ぎで台所へ戻って行った。

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「どうぞ、お召し上がりください!」

 剣乃介殿があっという間に料理の支度を整えてくれた。

「おお……っ!」

 膳の上に並べられた料理の数々は見た目の素晴らしさもさることながら、漂ってくる香りがなんともたまらん!
 だが、ここは武士として取り乱すわけにはいかぬ……

「かたじけない。それではさっそく……」

 拙者は静かに胸の前で手を合わせた。

「いっただっきまーす!!!」

 ――バクッ! バクッ! バクッ!

 んん~! みそ汁はダシがしっかりと効いておるし、かぼちゃの煮物はとろけるように美味い。そしてなにより……白米の焚き方が絶妙すぎるっ!
 拙者の箸は止まることなく、あっという間にすべて食べきってしまった。

「ふぅ~、大満足でござるっ!」
「喜んで頂けて、なによりでございます」

 剣乃介殿の笑顔を見て、拙者の心は決まった。

「剣乃介殿、どうか拙者にお礼をさせてくださらぬか」
「お礼……?」

 拙者は剣乃介殿の肩にそっと手を置いた。

「拙者が剣乃介殿を立派な武士にして差し上げよう!」
「えぇ……!?」

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 気が付けば、あれから一週間近くが経ったであろうか。
 拙者は塚原道場に留まり、剣乃介殿に剣術を指導していた。
 今日も気合を入れて、朝稽古でござる!

「ご準備はよろしいかな?」
「はい……」

 剣乃介殿はいつものように、恐る恐る拙者の前に進み出た。

「それでは構えてくだされ」

 剣乃介殿は今にも泣きだしそうな表情で木刀を構える。
 相変わらず覇気のない、なんとも情けない様子だ。

「では、拙者に全力で打ち込むのだ」
「ですが……私は……」
「さぁ、かかって参られい。剣乃介殿」
「うううううう……」

 剣乃介殿には恐怖心をすぐに表へ現してしまう癖がある。
 構えた木刀が震えているようでは、初めから勝負になどなるまい。
 この恐怖を乗り越えるには、稽古を続ける以外にないのだ。

「さぁ!」

 拙者のひと声で背中を押され、剣乃介殿は覚悟を決めて木刀を上段に構えた。

「いやあああああああーっ!!!」

 剣乃介殿は目をつむったまま、拙者の懐に飛び込んできた。

 ――ブンッ。

「うわぁぁぁ!」

 拙者がほんの僅かに力を込めた一振りで剣乃介殿は弾き返され、床に倒れこんだ。

「ううう……」

 酷なようだが、これもすべて剣乃介殿のためじゃ。

「さぁ、立たれよ!」

 剣乃介殿は目の前に掛かる、救世主の掛け軸を見上げた。

「ううっ…やっぱり私は剣の道には向いてないのですぅ~!!!」

 剣乃介殿は床に這いつくばったまま、泣き始めてしまった。

「そんなことでは、お父上から受け継いだこの道場を守ることは出来ぬぞ!」
「痛いのはイヤです、救世主どのぉ~!!!」
「だから、拙者は救世主ではな~い!」

 ――ぐうううううう~……

「もう、大きな声を出したら腹が減ってきたわい……」

 拙者の言葉を聞いて、剣乃介殿の表情が一気に明るくなった。

「救世主殿、それではご飯にいたしましょう!」
「いや、しかしまだ稽古が……」
「今日は鮎の塩焼きでございます!」

 拙者の喉が、思わずゴクリと大きな音を立てた。

「それは……楽しみでござるな」
「すぐに支度をして参ります!」

 剣乃介殿は意気揚々と台所へ駆けだして行った。
 その気勢が少しでも剣術に向いたらいいのだが……
 ほどなくして、剣乃介殿が拙者のために鮎の塩焼きを用意してくれた。

 ――モグモグモグ……

「んん~! んまぁ~い!!」

 外はカリカリ、中がフワフワの絶妙な焼き加減……
 相変わらず剣術とは打って変わって、料理の腕前は目を見張るものがある。

「剣乃介殿は本当に料理が上手じゃのう」
「亡くなった父上からも、よくほめて頂きました」
「本当にお優しいお父上だったのだな」
「はい……」

 みるみるうちに剣乃介殿の目に涙が滲んできた。

「しかし、誰よりも厳しく……強いお方でした。ううっ!」

 剣乃介殿の頬を、涙がポロポロと流れ落ちる。

「またそうやって泣くぅ……」

 この様子では、あの世におられるお父上も気が気ではないはずだ。
 いったい、どうすれば剣乃介殿は変わることが出来るのか……

「剣乃介さま~!」

 外で賑やかな子供たちの声がすると、剣乃介殿の表情が一気に明るくなった。

「みんな……!」

 元気な子供たちがカゴいっぱいの野菜を抱えて、屋敷の縁側にやって来たのだ。

「これ、お母ちゃんが剣乃介さまにって!」
「またうまい飯、作ってくれよ~!」
「くれよ~!」

 そう言って、子供たちは野菜を屋敷に置いて行った。

「はい、わかりました! いつもありがとうございます」

 剣乃介殿は走り去る子供たちの背中に笑顔で声をかけた。

「今の子供たちは?」
「村の人たちが私を心配して、いつも新鮮な食材を届けてくださるのです」
「そうか、村の人たちがな」

 剣乃介殿には周囲の人から愛される才能があるようだ。

「ひとりになった私に、とてもよくしてくださいます。みなさんの優しさに……ぐすっ、助けられて……ううっ!」

 あぁ、また泣きだしてまったぞ。

「も~、泣いてばかりではいかん。剣の腕を磨くのであろう?」

 拙者の問いかけに、剣乃介殿は自信なさげに首を左右に振った。

「私には、とても……」

 どうやら拙者は、武士として一番大切なことを伝え忘れていたようだ。

「そりゃ剣の道は厳しい。打たれれば痛いし、怖い。拙者もそうじゃ」
「え……救世主殿も?」
「それでも弱き者や、守りたいもののために戦わねばならぬ時が武士にはある。痛さも怖さも乗り越えねばならぬ時がな」

 剣乃介殿は真剣に耳を傾け、拙者の言葉を受け止めているようだった。

「乗り越えねばならぬ時……」

 剣乃介殿が拙者の言葉をかみしめるように繰り返したその時……

 ――ドカーン!

 道場から何かを破壊する大きな音が響いた!

「何事だ……っ!?」

 目の前の剣乃介殿は震える膝頭ひざがしらを必死に抑えていた。

「これは……まさか……」
「拙者が見て参ろう!」

 急いで剣術道場へ駆けつけると、見事に壁が破壊されていたのだ。

「なんと!」
「救世主殿……!」

 剣乃介殿も道場にやって来たその時、男の大きな声が聞こえてきた。

「たぁ~のもぉ~!!!」

 ブルル~ン!と揺れるお腹に、驚くほど大きなでべそが目立つ金髪の男がイヤらしい笑みを浮かべて現れる。
 その手には凶悪に光る大きな薙刀を持っていた。

「なにヤツっ!」

(つづく)


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著者:小山 真


次回9月4日更新予定


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