【第21回】魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸
「あいやしばらく! 見知らぬ土地へとやって来た拙者は、ひょんなことから塚原道場の剣乃介殿という少年の世話になっていた。剣乃介殿はお父上を亡くされてから、剣術道場の跡継ぎをしておるのだが……いかんせん、まだ年端も行かぬ幼子なのだ。そんな剣乃介殿の屋敷には、『赤龍の刀』という家宝があった。ある日、それを奪いにヒカシボウ=ベンケーなる無礼な輩が道場を襲ったのだ。拙者は剣乃介殿のため、この不届き者を成敗した。しかし、今度はヤツが性懲りもなく魔神に乗って現れたからさぁ大変! それでは今日も、拙者の大活躍をとくとご覧あれいっ!」
第11話「ご存知! さすらいの救世主!!」Aパート
「今度はミーのギューテンカクが、こってりとお相手するしぃ~!」
ギューテンカクに乗るベンケーのニクニクしい声が、塚原道場の中庭に響き渡った。
「おのれぃ……卑怯なヤツめ」
拙者はスマホの電池切れのせいで、戦神丸を呼ぶことは出来ぬ……だが!
「たとえ魔神が相手だろうと……逃げるつもりはござらんっ!」
拙者は己を奮い立たせ、再び二刀を鞘から素早く引き抜いた。
「救世主殿、危険すぎます!」
剣乃介殿は赤龍の刀を必死に握りしめ、今にも泣きだしそうな表情で拙者を見つめていた。
「剣乃介殿は下がっておるのだ!」
拙者は二刀を構え、ギューテンカクと相対した。
「ぶはははは! 生身でミーのギューテンカクに挑むとは、身の程知らずだしぃ~!」
「勝負はやってみなければわからぬぞ……!」
拙者は大地を蹴って、ギューテンカクの懐へ駆け出した。
「どうも、EXマンです! シバラク先生の大ピンチではありますが、そろそろアップダウンシティで姿を消したワタル君たちの様子も気になりますよね?ということで、ほんのちょっぴり前の時間に~……レッツらゴーゴー!」
こんなの何度見ても、信じられない!
ぼくたちはまるで、時代劇に出てくる『昔の村』に来ちゃったんだから。
「すごいや、そこら中に本物のお侍さん歩いてる!」
「まぁ、お前の格好もじゅうぶん『お侍さん』だけどな」
「そっかぁ~、そう見えちゃってる~?」
改めて自分の姿を見てみると、赤と白の長い陣羽織にワイルドな長髪……ハッキシ言って、カッコいい!
「おい、ワタル。ひょっとして、毎回着替えるつもりじゃないだろうな?」
「やっぱ、イケてる救世主はオシャレじゃないとね……って、ぼくも好きでやってるんじゃないってば!」
虎王にはこう言っちゃったけど、気分はぜんぜん悪くなかった。
今回はむしろ時代劇の主人公になったつもりでがんばっちゃおうかな!
「ワタル、虎ちゃん! お茶屋さんだよ!」
先に歩いてたヒミコが、お茶屋さんの前で嬉しそうに手を挙げていた。
「ここで、うまいもん食べるのだ!」
「どうする、ワタル?」
「よし、それなら少し休んでいこうか」
ぼくたちはとりあえず、店先に用意された席に座った。
「はい、いらっしゃ~い。ご注文は?」
すぐにお店の中から優しそうなおばあさんがやって来た。すると、虎王は待ちきれないといった様子で注文した。
「オレ様は、ビーフストロガノフ!」
「ビ~フ? んと……なんだって?」
おばあさんはまるで、初めて名前を聞いたみたいな顔をしてる。
やっぱり時代劇の世界だし、仕方ないよ。
「虎王、ここにはないみたいだね」
「しょうがねぇなぁ……じゃあ、団子でいいや」
ちょっと残念そうにしている虎王の横で、今度はヒミコが元気に手を挙げた。
「あちしはチョココロネがいいのだ!」
「はーい、チョココロネね」
「そっちはあんのかよ!」
虎王がおばあさんにツッコミを入れた。
そりゃ、ぼくだってビックリしたもん……
「んじゃ、少しお待ちくださいな」
おばあさんがお店の中に入って行ったその時――
――ガシャーン!!!
「いい加減にしやがれ!」
いきなり店の中から男の人の怒鳴り声が聞こえた。
「どうしたんだろう!?」
ただごとではないと思ったぼくは、急いで暖簾を開けて店の中に入った。
「今日という今日は、許さねぇぞ!」
「おまえら食い逃げばっかりしやがって!」
村の人たちだろうか、男のお客さんたちがちょんまげ姿のブリキントンと取っ組み合いのケンカをしている。
「店の中で暴れるのはやめてけれ……!」
お店のおじいさんがケンカを止めに入った。
「あ……っ!」
ブリキントンの仲間がおじいさんを襲おうとしてる!
ぼくは考えるより先に、サヤに入ったままの刀を鋭く振るった。
――ドスンッ!
おじいさんを狙ったブリキントンは、音もなくその場に倒れた。
ふぅ……なんとか無事でよかった。
「あれ……?」
気が付いたらお店の中にいたみんなの視線が、ぼくに集まってる。
こんな時、時代劇の主人公ならカッコよく決めるはず!
「無銭飲食たぁ、いけねぇな……食ったぶんはきちんと払ってもらわねぇと」
「兄さん、あんたいったい……?」
おっと、こいつは失礼しちまったぜ。
それなら、自己紹介させてもらいやしょうか。
「旅を続けて東へ西へ、運命に従い今日も行く。出会った悪は許さねぇ! さすらいの救世主……戦部ワタルたぁ、おいらのことよ!」
……決まった!
ハッキシ言って、今のぼくってめちゃくちゃかっこよくな~い??
そこへヒミコがやって来て、ぼくに大きな声をかけた。
「よっ! 迷子のきゅーきゅーしゃっ!」
――ガクッ。
「救世主だろ!? 迷子でもないし!」
もう、せっかくいい感じだったのにぃ~!
「お前ら、まだ暴れる気じゃないだろうな?」
虎王が眼光鋭くブリキントンたちを睨みつけた。
「言っとくが、オレ様はワタルほど優しくないぜ……!」
ブリキントンたちは虎王の迫力に圧倒されて、一斉に店から逃げて行った。
「おととい、いらっしゃいませ~!」
ヒミコは逃げていくブリキントンたちに笑顔で手を振った。
今回はなんとかなったみたいだけど、さっきの様子だとこれが初めてじゃないみたいだ。とにかく、お客さんたちに話を聞いてみよう。
「今のは、なんだったんですか?」
「ベンケー一門の奴らさ」
「ベンケーいちもん……?」
「ヤツらは落書きや食い逃げに野菜泥棒と、悪いことならなんでもござれの厄介な連中なんだ」
「この前も塚原道場の剣乃介が、家宝の刀を奪われそうになったって話さ」
「そうそう、昔からずーっとあの刀を狙ってたんだ。ベンケーのヤツ!」
「その刀って、そんなに凄いものなんですか?」
お店のおじいさんが、深く頷いた。
「あの道場に古くから伝わる最強の刀だっぺ。たしか……『赤龍の刀』つったべか」
「え……赤龍?」
ぼくたちの話を隣で聞いていた虎王の表情が、一気に真剣になった。
「なぁ、ワタル。もしかして、それって……」
「うん、きっとそうだよ!」
ぼくは虎王を見て頷いた。
これはもしかすると、龍神丸の欠片のヒントになるかもしれない。
「おじさん、その塚原道場ってどこにあるんですか!?」
(つづく)
著者:小山 真
次回9月18日更新予定
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