【第24回】魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸
第12話「赤い閃光! ダブル×の字斬り!」Bパート
拙者は戦神丸に飛び乗り、準備万端整った。
「うわあああああー!」
ワタルの声がして振り向くとギューテンカクは再び口から旋風を放ち、龍戦丸を空中に捕えていた。
「あいやしばらく!」
――シャキーン!
拙者はギューテンカクの口から生み出された旋風を一撃で断ち切った。
「オーマイ・ビーフ!」
ギューテンカクに乗るベンケーがたまげるのも無理はない。
風の呪縛から解放された龍戦丸は無事に地面に着地した。
「待たせたな、ワタル!」
「先生っ!」
龍戦丸と戦神丸が力強く並び立つ。
こうなればもう、こっちのものでござる!
「拙者たちが力を合わせれば、恐れるものなどなにもないぞ!」
「はい!」
ギューテンカクは再び薙刀を力強く構えた。
「ユーたち、まとめてミンチにしてくれるしぃ!」
「ベンケーよ、いざ尋常に勝負じゃ!」
龍戦丸に先んじて、戦神丸は怒涛の勢いでギューテンカクに向かって駆け出した。
「ワタル、拙者の後につづけぃ!」
「うん!」
戦神丸が二刀を胸の前でしっかりと構えた。
「野牛シバラク流……バツの字斬り!!!」
戦神丸が二刀を交差してバツの字に振り下ろし、渾身の力でギューテンカクの薙刀を弾き飛ばした。
「ぬぉう! ワッツハプン!?」
「今じゃ、ワタル! こやつにキツイお灸をすえてやれぃ!」
拙者の想いはすべてワタルに託した。
「はい、先生!」
龍戦丸が高々と空中に飛び上がった。
「よーし! 必殺……」
空中で龍戦丸が刀をバツの字に構えた。
「紅龍剣――――――っ!!!」
ワタルの雄々しい叫び声が響くと同時に、龍戦丸は地上に立つギューテンカク目がけて真っ逆さまに落ちていく。
全身から真っ赤な光を上げながら猛然と迫る姿は、さながら大空を舞う赤龍のようだ。
そのまま龍戦丸は瞬く間にギューテンカクに二刀を放つ。
「ま、まさかミーのギューテンカクが……!」
ギューテンカクの体にバツの字の閃光が走った。
――ドカーーーーーーーーン!!!
「オーマイ・ミーーーーート!!!」
ギューテンカクが大爆発を起こし、ベンケーは手足をジタバタさせながら空の彼方へ飛んでいった。
「やったね、先生!」
「ああ。師弟の力を合わせた、ダブル×の字斬りじゃ!」
ベンケーたちを退けた拙者たちは、塚原道場を後にすることにした。
「世話になったな、剣乃介殿」
門前まで見送りに来てくれた剣乃介殿は、寂しそうに視線を落とした。
「旅立ってしまうのですね……」
剣乃介殿は惜別の情に涙するかと思いきや、ぐっとこらえて拙者に笑顔を見せてくれた。
「お名残り惜しいですが、どうかご無事で!」
あれほど泣き虫だった少年が……どうやら一歩前へと進んだようだ。
ここは拙者も、剣乃介殿へ手向けの言葉を送らねばなるまい。
「……実に美味かった」
「え……?」
「そなたの料理は、皆が笑顔になる料理じゃ。人々を笑顔にできる……それこそが救世主の力!」
「私が……?」
「そして、強い相手にも立ち向かっていったあの勇気。これからも修業を積み、誰よりも優しく……誰よりも強い救世主となれ!」
剣乃介殿は晴れ晴れとした笑顔を見せた。
拙者の想いは、確かに伝わったのであろう。
「……はい! 救世主殿!」
ん? 剣乃介殿はまだ勘違いをしておるのか??
「だから拙者は救世主では――」
「いいえ」
剣乃介殿は首を横に振り、拙者にまっすぐな眼差しを向けた。
「戦うこと、守ることを教えてくださったアナタは……私の救世主殿です!」
「剣乃介殿……」
まさか拙者のことを、そんな風に思ってくれるとは……
気が付けば目頭が熱くなり、涙が込み上げてきた。
抑えろ、シバちゃん! 武士たるもの、人前で涙など見せてはいかんっ!
「あれま? おっさん、泣いてんのか?」
必死に涙を抑える拙者の顔を、ヒミコが無邪気に覗き込んできた。
「な、泣くわけなかろう!」
まったく、ヒミコのヤツは余計なことを……
――ぐうううううう~!
「でも、お腹はないてるのだ!」
「こ、これは……」
拙者の腹の虫の音を聞いて、剣乃介殿は明るく微笑んだ。
「そうだ、皆さんにお弁当を作ったんです!」
剣乃介殿は踵を返し、大急ぎで屋敷の中へ戻った。
楽しみにその場で待っていると、ヒミコが拙者の着物の裾を引っ張った。
「ねぇねぇおっさん、頭が薄くなってるよ!」
ヒミコが拙者を見上げながら、楽しそうに笑っている。
「え? そんなカバな!」
確かに拙者はワタルたちよりずっと年上だが、まだ髪の毛は自信があるぞ!?
やだやだ! シバちゃん、まだまだヤングマンなのにぃ~!
「あら??」
拙者は自分の右腕がうっすらと消えかかっているのに気が付いた。
「なんとぉ!」
よく見ると、ワタルたちの姿もうっすらと消え始めているではないか。
いったい、なにが起きたというのだ!?
「先生、大丈夫だよ。安心して」
ワタルはなぜか動じずに微笑んでいる。
「なにぃ? この状況で、安心できるわけなかろう!?」
「姿が消えても、次の場所へ移動するだけなんだよ」
虎王は慌てる拙者をなだめるように声をかけてきた。
「……なるほど。ふたりがそういうのなら、心配ないのであろう」
――ぐうううううう~……
拙者は腹の虫が鳴いたことで、大事なことを思い出した。
「そうじゃ! 剣乃介殿のお弁当がまだではないか!」
消えぬようにと必死に体を動かしてみたが、もはや止められそうもない。
「はぁ~! 弁当残念じゃ~~~~~~!!!」
(つづく)
著者:小山 真
次回10月16日更新予定
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