【第25回】魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸
第13話「とっても怖~い、ゴーストタウン!?」Aパート
「ぼくたちが『赤龍の刀』がある塚原道場にたどり着くと、シバラク先生が武士のような魔神・ギューテンカクに襲われて大ピンチになっていた。そんな先生を助けるために、いつも泣いてばかりだった剣乃介くんが勇気を出して魔神の前に進み出たんだ。それを見ていたぼくの中に熱い気持ちが湧いて来て、『龍戦丸』を呼び出すことが出来た。先生の乗る戦神丸と力を合わせ、ダブル×の字斬りでギューテンカクを倒したんだ。次はいったい、どんな世界で龍神丸の欠片がぼくたちを待っているんだろう。ハッキシ言って、今日もおもしろカッコいいぜ!」
剣乃介くんたちがいた村を後にしたぼくたちは、また水の中のような空間を落下していた。
「ワタル、あれはなんじゃ?」
先生は下に見えてきた光の出口を不思議そうに指さした。
「あそこを抜けると、次の世界に着くんだよ」
「え? 次の世界ぃ~?」
戸惑う先生の様子を見て、虎王が二ッと牙を見せて笑った。
「いいか、シバラク。逆さ創界山には色んな世界があるんだぜ?」
もぉ、先輩ぶっちゃって。虎王だってこの前までは大騒ぎしてたくせにぃ。
「ふむ……よくわからんが、大丈夫なのだな?」
「心配すんな。なんたってオレ様が一緒に旅してやってるんだからな!」
虎王が得意げになって先生に声をかけたその時
「ドロロンパ……!!!」
遠くの方でかすかに、不気味な声が聞こえた気がした。
「えっ、なに今の!?」
真下に見えていた光の出口が、ぐにゃぐにゃと大きくゆがみ始める。
「うわああああああああああ~!!!」
ぼくたちは悲鳴を上げなら、ゆがんだ光の出口に落ちて行った。
「ん……あれ??」
ぼくが目を開けると、そこは夜の闇に覆われた町の中だった。
まわりの建物は廃墟みたいにボロボロで、とっても不気味な雰囲気が漂っている。
「ここが新しいところなの? なんだか怖いところに来ちゃったなぁ~」
バサバサッ!
「うわぁ!!!」
暗闇の中で何かが羽ばたくような音がした。
「気を付けろ、ヒミコ! なにか近くにいるぞ!」
「ワタル、おもろいカッコーなのだ!」
ヒミコが隣で楽しそうにぼくを指さしている。
「カッコー!? 今はそれどころじゃ……」
バサバサバサッ!
「うわぁ! まただぁ! なんなのこの音!?」
ぼくは思わずしゃがみこみ、体を小さくして辺りの様子をうかがった。
「ニャハハハ! はね、はね!」
「え? 羽?」
恐る恐る振り向くと、ぼくの背中にコウモリみたいな羽が生えている。
「なんじゃこりゃ~~~~~~!!!」
ぼくは慌てて目の前にあった建物の窓に近づいて、自分の姿を確認した。
「どどど、ど~なってんの!?」
窓に映ったぼくは襟の立った黒いマントを羽織っていて、口元には違和感が……って、牙まで生えてる!?
「もしかして、今度はドラキュラ~!?」
「キャハハハ! 血ぃ吸うたろかぁ~!」
「ここはいったいどういう世界なんだろう? ねぇ、虎王、先生……って、あれ?」
辺りを見ると、ここにはぼくとヒミコしかいなかった。
「おかしいなぁ、さっきまで一緒だったのに……」
ぼくは薄暗い街に向かって、大声で問いかけた。
「おーい! 虎王! 先生ーっ?」
「きっと、かくれんぼなのだ!」
「え?」
「あちしが鬼なのだっ! いっくよーっ!」
ヒミコは楽しそうに走って行っちゃった。
「おい、ヒミコ! なにがあるか分からないんだから、気をつけるんだぞー?」
……って、自分で言ってて気が付いた。
こんな所にひとりで残された方がよっぽど怖いじゃないか!
「ま、待ってよ、ぼくも行くってばぁ!」
ぼくはあわててヒミコの後を追いかけた。
やっぱりこの町はなにかおかしい気がする。まわりを見渡しても明かりひとつ点いてないボロボロの建物が並んでるだけだ。
「な、なんかオバケでも出てきそうだなぁ……!」
ぼくは無我夢中で走ってるうちに、広場の端っこで立ち止まっていたヒミコのところに追いついた。
ヒミコは目元で両手を双眼鏡のように構えながら、辺りを見回している。
「ワタル、あそこになんかいるよ?」
ヒミコが広場の奥にある噴水の方を指さした。
「よかった、この街にも住んでる人がいたのか」
よく見てみたら、そこには白くて丸い形の影がいくつも揺れていた。
「あれってもしかして……」
「ヒミコ、いっちばーん!」
ぼくを置いたまま、ヒミコは勢いよく走りだした。
「ねぇ、置いてかないでよ!」
ぼくは急いでヒミコの後を追いかける。
すると、ヒミコが白くて丸い影に向かって元気な挨拶をした。
「おこんばんわっ~!」
ヒミコの声に反応して、暗闇に浮かんだ大勢の白い影が一斉にこちらの方へ振り向いた。
白い影にはみんなハッキリとした顔が……これって!
「オバケだあああああああああ~!!!!!」
「出たあああああああああああ~!!!!!」
なぜか、ぼくより先にオバケたちの方が悲鳴を上げた。
「どど、どうしてオバケが驚いてんの!?」
「驚くに決まってんだろーが!」
真ん中にいる、やせたオバケが目を大きくして言い返してきた。
「ひぃ! ご、ごめんなさい!」
続けて、他のオバケたちも話し始めた。
「はぁ……心臓が飛び出るかと思ったわ」
「こんな子供相手に驚くようになっちまったなんて、俺は情けないぜ!」
「まぁまぁ、とにかくみんなが無事でよかったじゃないか」
あれ? オバケって、思ってたより普通の人たちみたいだ。
さっきのやせたオバケが、今度は申し訳なさそうにこちらを見てきた。
「大きな声を出して悪かったな。てっきり、ドロロンパだと思ったんだよ」
「え? ドロロンパ?」
やせたオバケは不安そうにあたりの様子を確認しながら、ぼくたちにひそひそと声をかけて来た。
「このゴーストタウンで一番の悪オバケさ」
「わわ、悪オバケ!?」
やっぱりオバケにもいいヤツと悪いヤツがいるの!? そんなことを考えているうちに、ほかのオバケたちも不安そうな顔でぼくを見つめて来た。
「アイツは自分で『オドロキング』なんて名乗って、みんなを驚かせてばかりいるんだ」
「この前もいきなり魔神に乗って現れたのよ!」
「え? オバケが魔神に乗ってるの!?」
「ドロロンパが乗ってんのは、ただの魔神じゃねぇ!」
「自由自在に姿を消すことが出来るんだ!」
よく見ると、オバケたちの目元には大きなクマがあった。
「もしかしてみんな、眠れてないの?」
「ああ……安心して休むだなんて、とても無理だからな」
オバケたちは辛そうに表情を歪めて、ポロポロと涙を流し始めた。
「こんなんじゃ、生きた心地がしないよ!」
オバケなのに、生きた心地って……
でも、その気持ちはよくわかる。ぼくだって、怖いのはイヤだもん。
「それなら、ぼくがそのドロロンパってヤツをこらしめてあげるよ!」
オバケたちは目を涙で一杯にしながら、ぼくを見つめて来た。
「ほ、ホントに!?」
安心させるために、ぼくは自分の胸をドーンと叩いて見せた。
「大丈夫、ぼくにまかせて! こう見えてぼく、救世主なんだ!」
「救世主? どっちかっていうと、吸血鬼だけどな」
ガクッ!
「いやまぁ、たしかにそうなんだけど……」
やせたオバケがやって来て、静かにぼくの手を取った。
「頼む、どうかこのゴーストタウンを救ってくれ!」
他のオバケたちも真剣な表情でぼくを見つめている。
みんなの想いに、なんとか応えなきゃ。
「うん! そのドロロンパってヤツはどこにいるの?」
「もしかしたら、今夜は森の中にある月下の館にいるかもしれない。なんたって、今夜は満月だからな」
「月下の館?」
「ドロロンパが気に入っている大きな洋館よ」
「神出鬼没のアイツが、満月の日にはよくそこに出入りしているって噂なんだ」
「わかった、とにかくそこへ行ってみるね!」
(つづく)
著者:小山 真
次回10月23日更新予定
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