【第30回】魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸
第15話「ホントに怖~い、ドロロンタワー!」Bパート
「先生! どうしてここに!?」
「お主がドロロンパと戦うという話を聞いてな。助太刀に参った!」
ドロロンパと戦うのに、これほど頼もしい味方はいない。
ぼくは自然と笑顔になった。
「ありがとう! 先生がいれば千人力だよ!」
「さぁ、急いで先に進もうではないか」
だけどよく見ると、先生の顔色はとっても悪かった。まるで土みたいな色だ……
「先生、具合でも悪いの?」
「心配はいらん。拙者は元気だ」
その言葉とは反対に、先生の目は真っ赤に血走っていた。
「目だってつらそうだよ??」
「案ずるな、ただの寝不足じゃ」
やっぱり変だ。微笑んだ先生の口元から見えた歯だってボロボロに崩れてる。
「先生、歯はどうしちゃったの!?」
「なんの、虫歯が急に進んだだけだ」
見れば見るほど先生は調子が悪そうなんだけど……
――ぐうううううう~!
先生のお腹から大きな音が聞こえて来た。
「そっか、先生はお腹がすいてたんだね?」
「ああ。これ以上はもう、我慢できそうにないな」
「ごめんね先生、今は食べるものを持ってなくて」
「いいや、ご馳走なら拙者の目の前にあるではないか……」
先生はなぜかぼくを見ながら、よだれを垂らしている。
「ご馳走? どういうこと?」
「はぁ……はぁ……お主じゃ、ワタル」
先生はぼくを見ながらペロリと舌なめずりをした。
「もしかして……ぼくがご馳走ってことじゃ……?」
先生がカッと大きく目を見開くと突然、顔がボロボロに崩れ始めた。
「ワ~タ~ル~~~……」
「うわぁ! せ、先生!?」
「お~ぬ~し~を~く~わ~せ~ろおおおお~!」
先生は大口を開けてぼくに迫って来た!
「ひいいっ! イヤだああああ~!」
ぼくは大慌てで、その場から逃げ出した。
「く~わ~せ~ろおおおお~ っ!」
先生は口からよだれをダラダラ垂らしながらぼくを追いかけて来る。
「ど、どど、どーなってるの!?」
「あ~い~や~……し~ば~ら~くううう~っ!」
「うわああああああ~!」
ぼくは長い廊下をとにかく走り続けた。
どうすれば、先生は元に戻ってくれるの!?
「こっちだ、ワタル!」
声がした方を見ると、廊下の先に虎王がいた!
「虎王!?」
「オレ様の後ろに回れ! 早く!」
「わ、わかった!」
ぼくは言われるままに大急ぎで虎王の後ろに回った。
顔がボロボロに崩れた先生は、勢いも衰えずにこちらへ向かってくる。
「ワ~タ~ルううう~っ!」
「見てよ、先生が変なんだ! ぼくを食べるって!」
「ああ、オレ様にまかせろ……」
そう言うと、虎王は腰に下げた刀に手をかけた。
「虎王、どうする気……?」
ぼくの質問に、虎王はキッと前を見据えたまま答えた。
「どうするもなにもねえ! こうするんだ、たりゃぁぁぁ!!」
虎王は素早く刀を振り払い、走って来た先生を斬ってしまった!
「うがああああああーっ!」
そんな……まっぷたつになった先生の体がドロドロに溶けていく……
「先生っ!!!」
先生の体は完全に溶けて、地面に流れていった。
「虎王、なんてことするんだよ!?」
慌てるぼくとは対照的に、虎王は落ち着いた様子で刀をしまった。
「安心しろワタル、こいつは本物のシバラクじゃない」
「本物じゃないって、どういうこと?」
「ゾンビが化けてたんだ」
「え? ゾンビ?」
言われてみれば、さっきのが先生だとは思えない。
そうか、だから虎王は迷わずに斬ることが出来たんだ。
「よかったぁ……」
ホッとした瞬間に、ぼくの頭にひとつの疑問が浮かぶ。
「ねぇ、虎王はどうしてそんなこと知ってるの?」
ぼくの問いかけに、虎王は二ッと牙をみせて微笑んだ。
「それはだな……このオレ様も……」
今度は虎王の肌がボロボロに崩れ始めた。
これはさっきの先生と同じ……
「ゾンビだからだぜ~~~!」
「ええええ! 嘘でしょ~!?」
後ずさるぼくの背中に、なにかぬるっとしたものがぶつかった。
「ワ~タ~ルううう~っ!」
恐る恐る振り返ると……さっき溶けたはずの先生が、元の姿で立っていた!
「どど、どうしてぇ~!?」
「ゾ~ン~ビ~は~ふ~じ~み~じゃ~っ!」
「うわぁ~!」
ぼくは慌ててその場から飛び退いた。
「「ワ~タ~ル~! く~わ~せ~ろおおおおおお~!」」
ゾンビの虎王と先生は声を揃えると、まっかに目を輝かせながらぼくに向かって来る。
「ひええええええ~! こ、こないでってばぁ~!」
「うおおおお~~~~!」
ぼくは無我夢中で二人から逃げ出した。
「ワタルの肉は柔らかくてうまぁいのだぁぁぁ」
「オレ様にくわせろぉぉぉ」
どうしよう、このままじゃゾンビたちに食べられちゃうよ……!
「はぁ……はぁ……!」
ぼくは隠れる場所を探して、走り続けた。
だけど、こんなに見通しのいい廊下に隠れる場所なんかあるわけない。
「うおおおお~~~~!」
ゾンビたちのうめき声が、どんどん近づいてくる。
ふたりとも、ゾンビのくせに足が速すぎじゃない!?
「もうやだぁ~!!!」
必死に逃げ回るうちに、ようやく小さな部屋の扉が見えて来た。
「よし、ここだ!」
ぼくは大急ぎで部屋に入ると、すぐに扉を閉めてカギをかけた。
「はぁ……はぁ……」
荒くなった息を必死に抑えながら、ぼくはゾンビたちが過ぎ去るのを待った。
『うおおおお~~~~!』
扉の向こうでゾンビたちのうめき声が遠くなっていく。
「はぁ~……」
ゾンビたちに見つからなくて本当によかった。
――ドンドンドン!!!
突然、部屋の扉を叩く音がして、ぼくは心臓が止まりそうになった。
『ワ~タ~ルううううう~っ!』
『そ~こ~に~お~る~のだな~!!!』
さっきのゾンビたちだ!
扉は今にも壊れそうな感じで軋んでる。
「こ、来ないでってばぁ!」
『ワ~タ~ルううううう~っ!』
ゾンビたちが更に力を込めて扉を叩いて来る。
それに耐えられず、扉を止めている金具がひとつふたつと外れ始めた。
このままじゃ、ゾンビたちが部屋に入って来ちゃうよ!
「誰か…助けてええええ~!」
ぼくが情けなく助けを求めると、楽しそうな笑い声が返って来た。
『ケホホホ……いまの驚き顔はケッサクだったロンパよ、コウモリボーイ』
「ドロロンパ!?」
部屋を見回しても、やっぱりドロロンパの姿は見えず、声だけが聞こえる。
『怖くて怖くて仕方ないなら、リタイアすればいいでロンパ』
ぼくの目の前にボワンと煙が立ち上り、大きな扉が現れた。
その扉には、丁寧に『非常口』と書かれている。
「いったい、なんのつもりだ……!?」
『優しいミーが非常口を用意してあげたのでロンパ。そこから外にでれば、今すぐ楽になれるでロンパ』
ドロロンパは優しく、ぼくに語り掛けて来た。
「で、でも…ぼくは……」
確かにもうこれ以上、怖い思いなんてしたくない。
逃げ出せたら、どれほど楽だろう……
――バキィ!!!
「うひゃぁっ!」
遂に扉の一部に穴が開き、ゾンビたちの手が部屋の中まで伸びて来た。
『『ワ~タ~ルうううううう~!』』
これ以上、迷ってる時間はない。だけど……
「くうう……っ!」
『さぁ、答えを決めるでロンパ! オドロキングのミーに降参して、非常口を使うでロンパ!』
ドロロンパは語気を強め、ぼくに選択を迫ってくる。
「ぼくは……ぼくは……!!!」
(つづく)
著者:小山 真
次回3月12日更新予定
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