【第35回】魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸

魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸

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第18話「帰って来た、クールな男」Aパート


「創界山をさすらう自由な男、渡部わたりべクラマだ。俺は創界山を悪意で覆いつくしたドバズダーって野郎を調べていた途中、いきなり黒い霧に襲われて、意識を失い    目が覚めるとまた、鳥の姿になっちまってたんだ。聖龍妃様から聞いた話によると、ドバズダーとの戦いでバラバラになった龍神丸を復活させるために、ワタルたちが幻の逆さ創界山とやらに旅立ったっていうじゃねぇか。そんなことを聞いちゃ、俺もじっとしてられねぇよな……待ってろワタル、今すぐそっちへ行くぜ!」

「ここが……逆さ創界山なのか?」 

 水面みなもの鏡に飛び込んだ俺は、水の中のような空間を通り抜け、高い崖の上にたどり着いた。
 燦燦さんさんと降り注ぐ日差しの中、崖っぷちまで進んで辺りを見渡すと、ここが美しい海に囲まれた島だということがわかった。

「なんだ、ありゃ……?」

 海岸線に目をやると、穏やかな風景には不似合いの、金ピカに輝く悪趣味なビルがいくつも建っているのが見えた。
 よく見りゃ、いたるところで大規模な工事をしているみたいだ。
 聖龍妃様からは『幻のような不思議な場所』と聞いていたが、こりゃずいぶんとイメージが違うぜ。
 俺がじっくりと景色を見回していると、背後の岩間にほこらのようなものが作られていることに気が付いた。

「ん……?」

 岩で出来た祭壇の上には、龍の紋章が入ったヤシの実サイズの種がうやうやしくまつられていた。
 気のせいか、この種からは不思議と『力』のようなものを感じる。

「こんなの、初めて見るぜ……」

 俺がゆっくりとその種に顔を近づけたその時   

『たあああああ~!!!』

   バシ――――――――ン!!!

 頭に一発、強烈な衝撃が走った。

「クエエエ~ッ!!! なにしやがんだっ!」

 振り向くとウサギの姿をした女が、竹ぼうきを上段に構えて立っていた。 
 全身を真っ白な毛に覆われたその女は、長い耳をピンと立て、鋭いまなざしでこちらを睨みつけている。 

「龍樹の種を奪いに来たのね、この悪党め!」 

 どうやら俺は、泥棒か何かと思われたらしい。

「落ち着けよ、俺はただ……」

 ウサギの獣人は俺の話も聞かずに、突進してきた。

「たあああああ~!」
「ちょっと、たんまあああ~!」


「本当にごめんなさい……!!!」

 さっきのウサギの女は、俺に深々と頭を下げた。
 彼女の名前は『ミミ』と言い、崖の上の村に暮らしている獣人だった。

「気にすんな、アンタは大事な種を守ろうとしただけなんだろ?」
「いや……まさかクラマが島の外から来た、渡り鳥だとは思わなくてさ」

 ミミは申し訳なさそうな顔で、俺に少しばかりの治療をしてくれた。
 その間に彼女と話をして、ここが獣人たちの暮らす『アニマランド』という島だということがわかった。
 せっかくだ、ワタルたちのことも聞いてみるか。

「なぁミミ、この辺で人間の子供を見なかったか? そいつはワタルっていうんだが   

 俺はそう言いかけたところで、ミミの表情が険しくなっていることに気が付いた。

「どうかしたのか?」
「人間を探してるなんて、他の獣人には言わない方がいいよ」
「なんだって……?」 

 俺はその真剣な表情に、思わず言葉を飲み込んだ。

「アンタも見たでしょ? 島のあちこちで、大きな工事をしているのを……」
「ああ、そいつがどうかしたか?」
「あれは、ドケドケ建設の人間のしわざなんだ!」
「ドケドケ建設?」

 ミミはその長い耳を力なく垂らし、悔しそうに俯いた。

「アイツらは好き勝手にアニマランドの自然を壊してるのさ……!」

 この話を聞いてようやく納得がいった。だからミミは『人間』という言葉を聞いただけで、あんな反応をしたのか。

「あのな、ミミ。人間ってのは、そんなヤツばかりじゃねぇんだぜ?」
「島の外から来たアンタに、なにがわかるのよ!」 

 俺は諭すように、ミミの目をじっと見つめた。

「外から来たから、わかるんじゃねぇか」
「クラマ……」
「俺が探してるワタルってヤツはな、困ってるやつを放っておけないとんでもねぇお人好しなんだ」

 話すうちに、自然とワタルへの想いが口を突いて出た。

「アイツには何度助けられたかわからねぇ……だからワタルに助けが必要な時は、俺はなんとしてでも駆けつけてやらなきゃいけねぇんだ!」

 ミミは俺の話を聞くと、優しく微笑んだ。

「……わかったよ、クラマ。アンタが言う、そのワタルって子のことは信じる」
「そうか……ありがとな」
「ここで出会ったのもなにかの縁だ。人探しをするつもりなら、しばらくこの家を使っておくれ。どうせ行く当てなんてないんだろ?」
「気づかいはうれしいが、俺なら大丈夫だ。どこだって寝られるしな」
「事情を知った以上、放ってなんかおけないよ! この島では、獣人はみんなで助け合うって決まってるんだ」

 ミミはそう言って、真剣な様子で俺を見つめてきた。 

「わかったかい、クラマ! いいね?」

 おせっかいなヤツだが、どうやら俺のことを本気で心配してくれているらしい。
 たしかに、ワタルを見つけるまでどのくらいかかるのかもわからないしな。

「わかった……それじゃあ少しの間だけ、厄介になるぜ」

 俺はミミの家を拠点に、ワタルたちを探すことにした。

 あれから、すでに数日が経った……
 俺は村の広場にある切り株に座り、考えを巡らせた。
 島の上空を飛んであちこち探してはみたが、いるのはドケドケ建設のブリキントンたちばかりで、ワタルたちはまだ見つかっていない。

「本当に、ワタルたちもこの島に来てるのか……?」

ポツリと俺がつぶやくと、ヤギのおっさんが声をかけてきた。

「メェ~! 元気がねぇな、クラマ。これでも食えよ!」

 そう言って、俺にバナナを放り投げて来た。
 ほどよく熟れていて、とてもうまそうだ。 

「ありがとな、おっさん」
「メェ~! いいってことよ! ところで、探してるヤツは見つかりそうなのかい?」
「まぁ、簡単にはいかなそうだな」
「そうか。なにかあれば、いつでも頼ってくれ。獣人はみんな、家族みたいなもんなんだからよ!」

 ヤギのおっさんは、笑顔でその場を立ち去った。
 この村の住人たちは、よそ者の俺にも、とにかく親切にしてくれる。
 もちろん俺が人間を探しているなんてことは、ミミ以外知らないが……この島では『絆』を重んじる文化が、古くから伝わっているらしい。

「……ったく、調子が狂っちまうぜ」

 俺が苦笑いを浮かべたその時、背後からミミの大きな声が聞こえた。

「クラマ!」

 振り返ると、ミミが肩で息をしながらも嬉しそうに微笑んでいた。

「なにかあったのか?」

 ミミは慎重に辺りを見回すと、俺にだけ聞こえるように、こっそりと小声で耳打ちをした。

「クラマの探している人が、いたかもしれないんだ!」
「なんだって!?」 

 ミミは呼吸を整え、落ち着いて語り始めた。

「森の奥にある小さな村がドケドケ建設に襲われたみたいなんだけど、オオカミの少年のおかげで、そいつらを倒したっていうのよ」
「オオカミ? あのな、俺が探してるのは   
「いいから聞いて。その子の名前が、ワタルって言うんだって!」
「え……!?」 

 俺は一瞬、自分の耳を疑った。
 ワタルがオオカミの少年??
 考え込む俺に、ミミが声をかけてきた。

「とにかく、その村に行っておいでよ! なにか手がかりが見つかるかもしれないじゃないか」
「ああ……確かにそうだな」 

 ミミは俺を見つめ、ニッコリと微笑んだ。

「その村までは北にまっすぐ飛んでいけば、そんなに時間はかからないよ!」
「ありがとな、ミミ!」
「ドケドケ建設のヤツらには気を付けるんだよ。最近は、この辺りにも姿を現してるらしいからね」
「ああ、わかった」 

 俺はミミに見送られ、勢いよく飛び立った。
 大きく広げた二つの翼で風を受け止め、勢いよく上空へと舞い上がる。

    ヒュ~……バサバサッ!

 俺は大空を滑空し、北にあるという小さな村へ向かった。
 ミミから聞いた情報に、否が応でも期待が膨らんでくる。

「本当にワタルがいるといいんだが……!」

 はやる気持ちに突き動かされ、俺がさらに加速しようとしたその時   

    ドカ―――ン…………!!!

 はるか後方で起きた爆発音が、俺の耳を打った。
 慌てて振り返ると、衝撃の光景が目に入る。

「あれは……っ!」

 遠くに見えるミミの村から、煙がもうもうと立ち昇っていた。
 俺の胸の内に、イヤな予感が込み上げてくる。

「なにがあったってんだ……!?」

 あれはどう考えても、ただ事じゃない。
 よりによって、ようやくワタルたちの手がかりが見つかるかもしれないって時に……!
 無視して前へ進もうにも、世話になった村の獣人たちの顔が脳裏によぎる。

「ったく……自分がイヤになるぜ!」

 俺は急旋回して村へ引き返した。
 崖に近づくにつれて、村の様子が明らかになって来る。
 周囲に立っていた立派な木々はなぎ倒され、家々からは火の手が上がり、見るも無残な状況だ。
 村の中央にある広場で倒れてるのは、まさか……

「ミミ!」

 俺は倒れたミミの傍に着地し、声をかけた。

「大丈夫か!?」

 ミミは俺の声を聞いて、煤汚れた顔を力なくこちらに向けた。 

「く、クラマ……」
「いったい、なにがあったんだ!?」

ミミは目に涙を浮かべながら、俺に訴えかけた。

「種を……龍樹の種を奪われちゃったの……」
「なんだって? いったい、どこのどいつが   
「ドケドケ建設の、ボンクラーラだ!」 

 振り返ると、そこにはヤギのおっさんが他の村人たちと一緒に立っていた。

「ボンクラーラ? みんな、そいつを知ってるのか?」
「メェ~! ドケドケ建設の副社長さ!」
「ドケドケ建設……!?」

 他の村人たちが、悔しさをぶつけるように俺に声をかけた。

「ダンプカーみたいな大きな魔神で、この村をめちゃくちゃにしやがったんだ!」
「アイツは俺たち獣人のことを、ゴミみたいに扱いやがった……」
「だけどあんなのが相手じゃ、なにも出来るわけがねぇ!」 

 みんなの苦しそうな顔を見て、すぐに俺の心は決まった。
 このままこいつらを放っておくなんて出来ねぇだろ。

「なぁ、そのボンクラーラってやつは今、どこにいるんだ?」
「きっと南の開発地域だ!」
「建設中のビルを急いで完成させるって言ってたからな!」
「そうか。そこに行けば、そいつに……」 

 獣人たちの話を聞いた俺は、南の空を見据えた。

「クラマ……なにをするつもりだい?」

 ミミが、心配そうな表情で俺の腕を掴んだ。

「なぁに、そのボンクラーラってヤツにお灸をすえてやるだけさ」
「そんなことしたら、アンタだって危険な目に   
「獣人ってのは、絆を大事にするもんなんだろ?」 

 俺の言葉を聞いたミミはそっと手を放し、初めて会った時のような凛々しい表情で言った。

「絶対に、無理はするんじゃないよ……」
「心配すんな。龍樹の種は俺が必ず取り返す。お前はここで大人しくしてるんだぜ!」

 俺はミミの視線を背中に受け、空へ向かって勢いよく飛び上がった。
 目指すは島の南にある開発地区だ。俺はジャングルの中に強引に作られた道路を真下に見ながら、急いで飛び続けた。
 するとあっという間に、鉄骨がむき出しになった工事中のビルが見えてきた。

「あそこだな……獣人たちの仇は撃たせてもらうぜ!」

 俺は翼を使って勢いよく上昇し、工事中のビルの屋上に着地した。
 見ると、周囲はむき出しの鉄骨に囲まれ、打ちっぱなしのコンクリートの壁には様々な看板が掛けられていた。

『作業は安全第一!』
『工事中は、頭上に注意!』
『アニマランドは、ドケドケ建設のもの!』
『獣人たちはゴミと同じ!』

 それらを見ているうちに俺はミミたちが受けた仕打ちを思い出し、自然と怒りが湧いてきた。

「出てこい、ボンクラーラ! てめぇに用がある!」

 俺は鉄骨の陰に向かって、挑発的に叫んだ。
 すると暗がりから『ブル、ブルル……』と轟く重低音が、徐々にこちらに向かってくるのが聞こえた。

「バブバブ~っ!!!」

 甲高い男の声と共に、鉄骨の陰からダンプカーのような魔神が猛スピードで飛び出してきた!

 

(つづく)


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著者:小山 真


次回4月30日更新予定


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