【第38回】魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸

魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸

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第19話「とんでもな~く、カバなヤツ!」Bパート

 突然現れたマッハブルコンボスを、虎王は鋭く睨んだ。

「なんなんだ、コイツは!」

 ココは緊張した様子でマッハブルコンボスを見据え、絞り出すように声を上げた。

「あれは、ドケドケ建設の社長……トン・カバチョの魔神だ!」
「このカバ野郎っ! カバな獣人ごときが俺の名前を呼ぶんじゃねぇ! これだからカバにつける薬はねぇってんだよ! カーバ!」
「トン・カバチョ……オイラはお前を許さないっ!」

 ココは鋭い爪をむき出しにして、マッハブルコンボスへ向かって駆けだした。

「おい、ネコの小僧! こいつがどうなってもいいのか?」

 マッハブルコンボスは、ココにヤシの実のようなものを見せつけた。

「そんな……っ!」

 ココが表情を一変させ、その場で足を止める。

「どうしてお前が……龍樹の種をっ!?」
「え……あれが!?」

 確かに種の表面には、まるで焼き印のように龍の紋章が刻まれている。
 マッハブルコンボスは、ココの目の前で龍樹の種を持つ手に力を込めた。

「この種、潰しちゃおっかなぁ~?」
「や、やめてくれ……!」

 ココは飛び出ていた鋭い爪を収め、力なく両腕をおろした。
 マッハブルコンボスから、トン・カバチョの嬉しそうな声が聞こえてくる。

「ガーッハッハ! 俺のかわいいかわいい我が息子、ボンクラーラちゃんが言ってた通りだな! この島のカバな獣人どもは、この種を見せれば、だ~れも逆らえない! 最っ高のおもちゃが手に入ったぜ~!」
「みんなの宝物を、人質にするつもりなのか……!」

 シバラク先生は厳しい表情で、マッハブルコンボスを見つめた。

「なんと、卑怯な……!」

 ぼくは胸の中に込み上げてくる気持ちを抑えきれず、マッハブルコンボスに向けて声を上げた。

「トン・カバチョ! その種を返せ!」

 ぼくのひと言に、ココが驚いてこちらを見る。
 だけど、ぼくはマッハブルコンボスから目を離さなかった。

「その生意気な目はなんだ、カバ野郎……?」

 マッハブルコンボスは龍樹の種を何度も宙に放り投げ、もてあそぶ。

「この種がどうなってもいいのか~? ガハハハハッ!」

 あれは……この島のみんなが大切にしてきたものなのに……!
 そう思えば思うほど、ぼくの気持ちは強くなった。

「龍樹の種を……返せ!!!」

 ぼくが必死に声を上げると、すぐにココが反応した。

「よそ者のお前がでしゃばるな! もうこの島のことには、かかわらないでくれ!」
「黙ってなんていられないよ! あんな卑怯なヤツ……ぼくは絶対に許せないんだ!」
「ワタル……!」

 ぼくたちを威嚇するように、マッハブルコンボスが大きなエンジン音を轟かせる。

    ブルルンッ! ブルルルンッ!

「おもしれぇじゃねぇか、やれるもんならやってみな!」

 シバラク先生が前に進み出て、胸元から颯爽とスマホを取り出した。

「任せろ、ワタル。拙者と戦神丸が助太刀いたす……って、ここ圏外~っ!?」

 先生は大急ぎで虎王の後ろに隠れてしまった。

「無念じゃ、戦神丸さえ呼べれば……!」
「安心しろ、このデカぶつはオレ様が邪虎丸でぶっ飛ばしてやる!」
「ダメだよ!」
「なんでだ、ワタル!?」
「そんなことしたら、アイツはきっと龍樹の種を壊すつもりだ!」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ!?」
「それは……っ」

 ぼくたちが言い合いしてる途中で、マッハブルコンボスの背中に伸びた排気管から真っ黒な排気ガスが吹きだした。

「いくぜ、カバ野郎ぉ!!!」

 マッハブルコンボスが両かかとに付いたタイヤを猛烈な勢いで回転させ、土煙を巻き上げながら走り出した。

「みんな、よけて!」

 咄嗟に分かれたぼくたちの目の前を、マッハブルコンボスが通過する。
 もうもうと舞う土煙の向こうで、急ブレーキをかけてこちらに向き直ったマッハブルコンボスから、トン・カバチョの挑発的な声が聞こえてくる。

「ガーッハッハ! さっきまでの威勢の良さはどこにいったんだぁ!?」
「くっそぉ~!」

 トン・カバチョの卑怯さにカッとなって、さっきはあんな風に言ったけど……実際のところ魔神を相手に種を奪い返すなんて、ハッキシ言ってかなり難しい。
 ぼくはマッハブルコンボスの巨体を見つめ、必死に考えを巡らせた。
 魔神にも乗らず、自分たちの力だけで種を奪い返す方法を。

「せめて、弱点でもあれば……」

 慎重に様子を伺っていたぼくの周りを、穏やかな風が吹き抜けたその時      

「あひんっ!」

 なぜか、マッハブルコンボスが身をよじらせた。

「うふんっ!」
「な、なんだぁ?」

 ヘンテコな声に魔神を見ると、風に揺れた葉がマッハブルコンボスの脇に触れていた。

「く、くすぐったいじゃねぇか! マッハブルコンボスの敏感肌センサーは俺まで反応しちまうんだぞ!!!」
「敏感肌センサー? なにそれ??」

 マッハブルコンボスはぼくたちに構わず、周りに伸びた葉をちぎり続けた。

「ったく、これだから自然は大嫌いなんだっ! このっ! このっ!」

 魔神に乗ってても、くすぐったいだなんて変なヤツだなぁ……けど、待てよ?

「ん? そうか、だったら……!」

 ぼくはとびっきりのアイデアを思いついて、ヒミコの元に駆け寄った。

「ヒミコ、お願いがあるんだ!」
「なんなのだ?」
「あのね、ごにょごにょごにょ……」

 耳元で作戦を伝えると、ヒミコは満面の笑みを浮かべた。

「キャハハハハ! おもしろそーだね!」
「頼んだよ、ヒミコ!」

 周りに生えた葉をむしり尽くしたマッハブルコンボスが、遂にこっちを向いた。

「待たせたな、カバ野郎ども! 今度こそぶっ潰してやるぜ!」

 マッハブルコンボスが再び走り出し、こちらに向かってくる。
 ヒミコがアレをするまで、なんとしてもアイツの動きを止めなきゃ!
 そのためには……そのためには……あれだ!!!
 
「これを見ろー! ……あそれっ、カーナマ! カーナマ! カーナーマー!」

 ぼくはニワトリのように頭を前後に動かし、タコみたいに腕をクネクネさせ、ゾウのようにパワフルなステップを踏んだ。
 マッハブルコンボスが、ぼくの動きを見て急停止した。

「なんだ? その動きは……?」

 ぼくは必死に声を出し、踊り続けた。
 ウサギのように可愛く、オオカミっぽくワイルドに。

「あそれっ、カーナマ! カーナマ! カーナーマー!」
「ワタル……!」

 ココは驚いた様子で、ぼくをじっと見ていた。
 ぼくはそれでもかまわず踊り続ける。

「あそれっ、カーナマ! カーナマ! カーナーマー!」

 踊り続けるぼくを見て、トン・カバチョだけでなく虎王や先生もビックリして固まっていた。

「な、なにやってんだ、ワタル!?」
「それにしても、楽しそうな踊りでござるな。思わず見入ってしまうほどに……」

 ぼくは踊りながら、先生たちを手招きした。

「ほら、虎王と先生も一緒に!」
「え、オレ様たちも!?」
「いいから、お願い!」

 戸惑う虎王とは対照的に、先生は肩を回して気合十分といった様子だ。

「そういうことなら、拙者に任せろ! 宮本村では踊るシーバちゃんと呼ばれたものよ!」

『あそれっ、カーナマ! カーナマ! カーナーマー!』

 虎王と先生も加わり、ぼくと一緒に踊り始めた。

「お前ら、想像以上のカバ野郎だな……」

 マッハブルコンボスはポカーンとした様子で、固まっている。
 その様子を見て、ぼくは今がチャンスと声を上げた。

「ヒミコ、お願い!」
「はいなのだー!」

 すでにヒミコは、マッハブルコンボスの懐に入っていた。

「な、なにぃ? この娘、いつの間に……!?」
「ヒミコミコミコ、ヒミコミコ……忍法、魔神じゃらしの術~っ!」

 ボンっと煙が小さく上がった次の瞬間、ヒミコが超巨大なネコじゃらしを手にしていた。

「いっくよ~! コチョコチョコチョ!」

 ヒミコはネコじゃらしを使って、マッハブルコンボスをくすぐり始めた。

「あふんっ! イヤんっ! やめろ~っ!!!」

 思った通りだ! あの魔神の敏感肌センサーのおかげで、トン・カバチョにくすぐり攻撃が効いてるぞ!
 マッハブルコンボスがどんなに身をよじらせても、ヒミコのくすぐり攻撃は止まらない。
 
「キャハハハハ! コチョコチョコチョコチョ~!」
「もう、むりいいいいいい~!」

    ドテ―――――――――ン!!!

 バランスを失ったマッハブルコンボスが仰向けに倒れると、遂に龍樹の種からその手を離した。
 ココが宙を舞う龍樹の種を見上げ、声を上げる。

「龍樹の種が……っ!」
「ぼくにまかせて!」

 ぼくはオオカミの脚力を活かして勢いよく駆け出し、宙を舞う龍樹の種を目掛けて飛び上がる。

「ワォ~~~~~~~ン!!!」

 ぼくは空中でキャッチした龍樹の種を、しっかりと抱いたまま着地した。

「やりやがったな、カバ野郎ーっ!」

 マッハブルコンボスが地面に手を付き、立ち上がろうとする。
 ぼくは大急ぎでココに駆け寄り、龍樹の種を渡した。

「ココ、今のうちにこれを持って逃げて!」
「ワタル……」
「さぁ、早く!」
「……わかった!」

 ぼくに背中を押され、ココが種を抱えて村の方へ駆けていく。

    ブルルンッ! ブルルルンッ!

 マッハブルコンボスのエンジン音で、周囲の空気がビリビリと震える。

「この俺を、ここまでカバにしやがって……オオカミ小僧、覚悟は出来てるんだろうなぁ!!!」

トン・カバチョの声は、怒りに満ちていた。
 急発進に備え、マッハブルコンボスが低く身構える。

「まずい……!」
「いくぜ、カバ野郎っ!!!」

 マッハブルコンボスは猛スピードでこちらに向かって来る。

「うわぁ!!!」

 横っ飛びして、ぼくはギリギリのところでマッハブルコンボスを躱した。

「イタタ……っ」

 ぼくが顔を上げると、マッハブルコンボスがUターンしてこちらに向かって来るのが見えた。

「ペチャンコにしてやるぜえええーっ!!!」
「くぅ……っ!」

 マッハブルコンボスの黒い巨体が勢いよく迫ってきたその時、ジャングルからココの大きな声が聞こえた。

『ワタルを助けるぞー!!!』

 その声に続いて、獣人たちの雄叫びが響き渡る。

『ウオオオオオー!!!』

 ぼくの後ろから無数のバナナが飛んでいき、マッハブルコンボスの進路を真っ黄色に埋め尽くした。

「ま、魔神は急に止まれねええええ~!!!」

 マッハブルコンボスはバナナの皮で見事にスリップして、大木に激突した。
 ぼくが振り返ると、そこにはココと村の獣人たちが来ていた。

「みんな……どうして!?」
「ワタルがオイラたちのためにあそこまでしてくれたのに、見捨てられるわけがないだろ?」
「ココ……」

 ココはその手に龍樹の種を持ったまま、まっすぐにぼくを見つめてきた。

「ワタルが人間だろうと構わない。オイラたちの間には……切っても切れない、カナマの絆があるんだ!」
「ココ……ありがとう!!!」

 ぼくたちが微笑み合ったその時……

    ピカ―――――――――――ン!!!

「これは……っ!!!」

 龍樹の種から放たれたまばゆい光に、ぼくの全身が包まれた!

(つづく)


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著者:小山 真


次回6月11日更新予定


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