【第48回】魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸

魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸

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第24話「笑って、泣いて、大ゲンカ!?」Aパート

「オレ様は虎王。バラバラになった龍神丸を復活させるために、ワタルと一緒に逆さ創界山を旅している。この前はブリキン城ってところで魔神のバトルトーナメントに出たんだが、突然ゴーストンという巨大なヤツが現れた。とんでもないパワーで暴れ回るそいつは、斬っても斬っても傷が再生しやがるんだ。再生の秘密に気付いたワタルと、オレ様たちが力を合わせ立ち向かったその時、龍神丸の五つ目の欠片が輝き応じて、目の前に『聖龍丸せいりゅうまる』が姿を現した。ゴーストンをぶっ飛ばし、次の世界に旅立ったオレ様たちがやって来たのは、今度は陽気な音楽が流れるなにやら賑やかな場所のようなんだが……ま、なにが来ようと、オレ様とワタルが一緒なら問題ない。そうだよな、ワタル!」

『『『ようこそ、リューグーランドへ!!!』』』

 スタッフたちがピカピカと光る大きな門の前に整列し、オレ様たちを歓迎した。
 ニコニコと満面の笑みを浮かべたそいつらの中央にいた小さなヤツが、オレ様たちの前へ進み出る。 

「私は案内人のオトヒメです。あなたたちが来るのを、心待ちにしておりました」

 出迎えの言葉を言うと、オトヒメは手に持っていた竪琴たてごとの弦を優しく弾いた。
 音に促されるように見ると、華やかに飾られた門の向こうには、たくさんの変わった乗り物があるようだ。
 ワタルとヒミコはそれを見て、目を輝かせた。

「うわぁ! メリーゴーランドに、ジェットコースター、ゴーカートまであるよ!」
「ぐ~るぐる~の、ビューンビューンの、ゴーゴーゴーなのだ!」
「まったく、おまえたちあんなもんに乗りたいのか?」 

 オレ様が呆れていると、海火子とシバラク先生まで身を乗り出した。

「なんだか楽しそうなところじゃねぇか!」
「そうじゃのう! 拙者、お小遣い足りるかなぁ~?」
「いいえ、ここではお金などいっさい必要ありません」
「なんと、それはまことでござるか!?」 

 オトヒメは相変わらずの穏やかな口調のまま、話を続ける。

「何も気にすることなく、たまにはごゆるりとされてはいかがでしょう? ここは戦いのない、笑顔溢れる夢の世界。すべてを忘れ、心行くまで楽しんでいってください」

 戦いのない、笑顔溢れる世界か……
 考えているオレ様のとなりで、ワタルは残念そうに眉を顰めた。 

「ホントは遊んでいきたいんだけど……ぼくたちには、やらなきゃいけないことがあるんです」
「ああ、ワタルの言うとおりだ。オレ様たちは龍神丸の欠片を   
「そんなことおっしゃらずに!」 

 オトヒメは笑顔のまま、ぐいっとワタルに歩み寄った。

「ニコニコ笑って楽しんで!」 

リューグーランドのスタッフたちが、あっという間にオレ様たちの周囲を取り囲む。

『『『ニコニコ笑って楽しんで!』』』

 そう言うとオトヒメとスタッフたちは、オレ様たちを強引にリューグーランドの中へと案内した。

 

 最初は戸惑っていたワタルたちも、アトラクションとやらにいくつか乗るうち、リューグーランドを楽しみ始めていた。

「よーし、次はコーヒーカップに乗ろうよ!」
「それが終わったら、もう一回『じぇっとこーすたー』に乗ろうぜ!」
「あちしは、おウマさんのぐ~るぐる~がいいのだ!」
「拙者のゴーカートが先じゃ~!」

 まったく、なにがそんなにおもしろいんだか……
 正直言って、オレ様にはこんな乗り物、もの足りないぜ。 

「なぁ、そろそろ龍神丸の欠片を探しに行こうぜ?」

 オレ様が声をかけても、ワタルたちは駆け足でコーヒーカップに乗り込んでいく。

「大丈夫だって、あとでちゃんとがんばるから!」
「ちょっとの息抜きくらい、バチは当たらないんじゃねぇか?」
「そのとおり! 適度な休息は必要でござるぞ」
「キャハハハハ! しゅっぱつ、おしんこー!」 

 ま、たしかにここへ来るまではいろいろ大変だったからな。
 ワタルたちに少しだけ付き合ってやるか。

「好きにしろ、オレ様はここで待ってるからな」 

 オレ様はベンチに座り、ひと息つくことにした。
 ブザー音が鳴り響き、ワタルたちの乗るコーヒーカップが勢いよく回り始める。 

「うわわわ……ちょっと、海火子! そんなに早く回さないでよぉ~!」
「情けねぇなぁ! このくらいのスピードじゃ、ぜんぜん物足りねぇぜ!」 

 海火子がハンドルを回すと、コーヒーカップは更に加速していく。

「キャハハハハ! ぐるぐるぐる~!」
「あいや、しばらく~っ!」 

 楽しそうにしているワタルたちを見ていると、こういう時間も悪くはないと思えてきた。

「ったく……」 

『『『失礼しま~す!!!』』』 

 スタッフたちがオレ様のそばにやって来て、一斉に掃除を始めた。

『『『ゴミはテキパキ! おそうじ、おそうじっ!!!』』』

 全員で地面に這いつくばって、汗まみれになりながら雑巾がけをしている。
 地面に汗が落ちたら、そこに消毒液まで振り撒く徹底ぶりだ。 

「はい、消毒、消毒ぅー!!!」 

 あんまりに真剣な様子を見ていたら、オレ様の疑問が口を突いて出た。

「そこまでやるのかよ……?」

 一斉にこちらを向いたスタッフたちが、また笑顔で声を揃える。

『『『ニコニコ笑って、楽しんで!!!』』』

 そう言うと、スタッフたちはまた雑巾がけを始めた。それも、とびっきりの笑顔で……
 オレ様にはその光景が、なんだか奇妙に映ってしかたがなかった。 

「ねぇ、虎王!」

 後ろからの呼び声に振り向くと、ワタルたちがコーヒーカップを乗り終えたところのようだった。
 ワタルはオレ様に向かって、ぶんぶんと大きく手を振っている。

「今度はごちそうを用意してくれたんだって~!」
「なんだと?」

 

 

 オレ様たちは、リューグーランドの中にあるレストランへ案内された。
 そこにはハンバーグやエビフライ、チャーハンにから揚げ、プリンにケーキまで、ありとあらゆるごちそうが山のように並んでいる。
 どうしてオトヒメたちはここまでしてくれるのか……オレ様にはさっぱりわからない。 

「うわぁ~! おいしそ~!!!」

 目をキラキラさせて言うワタルは、どうやらごちそうの山に心を奪われちまってるようだな。

「これはえるのう!」

 シバラクはシバラクで、スマホのカメラを使って、夢中で料理を撮っている。

「なぁ、ぜんぶ食っていいのか!?」 

 確認する海火子に、オトヒメは笑顔で頷いた。

「もちろんです。好きなだけお召し上がりください」
「いっただっきま~すなのだ!!!」 

 ヒミコの声をきっかけに、ワタルたちが次から次に料理を食べ始めた。
 オレ様はどうも素直にごちそうを食べる気にはならない。
 龍神丸の欠片のことはもちろん気になるが……それ以上に、リューグーランドで覚えた違和感が心の奥に引っかかっていたからだ。
 ここはなにかおかしいと、オレ様は本能で感じ取ったのかもしれない。

「……オレ様は外で待ってるぞ」
「ええ? 虎王は食べないの~?」 

 山盛りの料理を手にしたワタルの呑気な声を背中に受けながら、オレ様はレストランの裏手へ出た。
 そこには、満開の桜並木が遠くの方まで広がっている。
 そよ風が吹き抜け、辺りには桜の花びらが美しく舞い散った。
 オレ様は空中をひらひらと落ちていく花びらを見つめながら、ここに来てからのことを考えていた。
 たしかに、ここは楽しい乗りものやごちそうが溢れ、スタッフたちはいつも笑っている……
 オトヒメの言う通り、ここは『戦いのない、笑顔溢れる夢の世界』なのかもしれないが    

「アナタ、笑顔がぜんぜんなってないわ!」

 声に気が付いて振り向くと、建物の陰でスタッフのひとりが偉そうなヤツに叱られていた。

「すみません、今日は体調が悪くて……」 

 深々と頭を下げたスタッフを、偉そうなヤツは張り付いたような笑顔で責め立てた。

「病気だろうがなんだろうが、リューグーランドのスタッフは笑顔を忘れてはならないのです!」
「は……はい! 一生懸命がんばって笑いますので……!」
「もういい! アナタは裏に下がってなさい!」 

 スタッフは泣きながら裏手に消えていった。
 オレ様がその光景をジッと見ていると    

「お、お客様……っ!?」

 叱っていた偉そうなヤツが、オレ様の視線に気が付いた。
 あの張り付いたような笑顔のまま、オレ様にグイグイと向かって来る。

「なにかお困りでしょうか~!?」
「いや、それより今のはなんだったんだ?」
「な……なんでもございませーん! ニコニコ笑って楽しんで~っ!!!」 

 そいつは大慌てで、その場から逃げ去った。
 ここのスタッフたちの笑顔は、あんな風に無理やり作ったものだったのか……
 そう考えると、リューグーランド自体が急にうさんくさく感じた。
 周りのすべてが怪しく見え、警戒して目を凝らしていると、ワタルの声が聞こえた。

「あ、いたいたー! おーい、虎王~!」 

 こっちへ来たワタルに、オレ様はすぐに確認した。

「なぁ、ワタル。お前はここが変だとは思わないのか?」 

 オレ様が真剣に聞いているのに、なぜかワタルはへらへらと笑っている。

「なにいってんの~? 早くしないと、せっかくのごちそうが冷めちゃうよ~」
「今は飯のことなんて、どうでも   」 

 ワタルの背中にあるべきものがないことに気がつき、オレ様の胸がざわついた。

「おい、七魂の剣はどうした?」
「え~? 食事の邪魔だから預けたけど?」 

 ケロリと答えたワタルの腕を、オレ様は強く掴んで引き寄せる。

「なにやってんだ! あれはお前の大事な剣だろ!」
「虎王、怖~い! 『ニコニコ笑って楽しんで!』だよ。ほら~早く~!」
「ふざけるな! おまえ、自分がなにをしたのか、わかってんのか!?」
「こんなに楽しい所なのに怖い顔して~! 虎王ってば、変なの~」
「……ワタル……?」
「なんで笑ってくれないの~?」 

 おかしい。いつものワタルとは、明らかに違う!

「しっかりしろ、ワタル! おまえ、一体 ――」
「翔龍子様なら、ぼくと一緒に笑ってくれるのに~!」
「……っ!!」 

 その瞬間、奈落の底に叩きつけられたような気がした。
 かつて魔界皇子と呼ばれていたオレ様は、神部界に平和が戻ると同時に翔龍子の姿になった。その体の中に……『虎王』の心を宿したまま。
 神部界の誰もが翔龍子を称え、敬っていた。
 だが、『虎王』のことは、災いを招く魔界の者と恐れ、蔑んでいた。
 そんなオレ様を『虎王』と呼んでくれ、共に戦い、永遠の友と誓い合ったおまえが、そんな……!! 

    バシンッ! 

 腕を掴んでいた手を振り払い、オレ様はその手でワタルの頬を打った。
 ワタルは今、普通じゃない。
 そんな事、頭の中では分かっている! だが、止める事が出来なかった。

「勝手にしろ!!」 

 今までこんなに、ワタルに声を荒げた事があっただろうか。
 それ程の叫び声を上げて、オレ様は駆け出していた。 

「く……っ!!!」

 オレ様は湧き起こる様々な感情を振り払うように走り続けた。
 地面に散った桜の花びらを踏み、蹴散らし、闇雲に足を動かすことしかできなかった。 

「はぁ……はぁ……」 

 リューグーランドの中に流れる楽し気な音楽が、オレ様の耳元を何度も何度もよぎる。

「はぁ……はぁ……はぁ……」 

 どこをどう進んできたのだろう、オレ様は走りつかれて、ようやく足を止めた。
 どこをどう走って来たのかも覚えてはいない。ただ、顔を上げると目の前に『創界山タワー』がそびえ立っていた。

「あ、虎ちゃんみっけーっ!」

 背後からヒミコが元気な声をかけて来た。

「ねぇねぇ、虎ちゃん。ワタルがなんか、かっこよくないのだ」
「ほっとけ、あんなやつ!」 

 背を向けたままのオレ様に、ヒミコが応える。

「ケンカしたのか? ケンカしたなら、ごめんなさいするのだ!」
「オレ様は悪くない」 

 誰もいない創界山タワーの中へと、階段を上り始めたオレ様の背中に向け、ヒミコが大きな声で叫んだ。

「虎ちゃんも、かっこよくないのだーっ!!!」 

 オレ様はその声にも、決して振り返ることはなかった。

(つづく)


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著者:小山 眞


次回12月10日更新予定


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