【第49回】魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸

魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸

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第24話「笑って、泣いて、大ゲンカ!?」Bパート

 創界山タワーの屋上にたどり着いたオレ様は、そのへりに座って、眼下に広がる景色をただぼんやりと眺めていた。
 底冷えする夜風を受けながら、オレ様は右手に目をやった。
 ワタルを叩いたあの時の痛みが、ジワリと蘇ってくる。

「…………」

 静かに手を握りしめたオレ様の背後で、竪琴の弦を弾く高い音がした。

「楽しんで頂けてないようですね? みなさん、あんなに楽しそうに笑っているのに……」
「そんな気分じゃない」
「笑いましょう」
「オレ様に指図するな」

 振り返り、その顔を睨んだ。
 ニコニコとしたオトヒメの顔が、オレ様の気持ちを逆なでる。

「いったいなんなんだここは? どいつもこいつも、うさんくさい笑いしやがって――」

 一瞬、そこに見えたものにオレ様は目を疑った。
 オトヒメの背中には『七魂の剣』が ――

「どうしてお前が、それを!」
「預からせていただきました。リューグーランドでは必要のないものなので」

 オレ様の中で積み重なっていた違和感は、間違いじゃなかったんだ。
 やっぱり、こいつのせいでワタルが……!


 いぶかる視線を向けるオレ様に、オトヒメは穏やかな笑顔を一切崩さないまま淡々と言葉を続ける。

「楽しいものも、美味しいものも、ご用意しました。汚らわしいものも、徹底的にお掃除しています。なのに……あなただけが笑わない」

 一歩、また一歩とオレ様に歩み寄って来る。

「笑顔でいられるのは平和なこと、素晴らしいこと、そして誰もが望むこと。なのに、あなただけが笑わない。つまり……」

 屋上の中央で立ち止まり、不気味なまでにその口角を上げた。

「あなたは間違っています」

 オトヒメが竪琴の弦を弾くと、周囲に突風が吹き荒れた。

「く……っ!?」

 オトヒメの背後から、ゆっくりと浮上してきた巨大な影。それは全身を赤と白に彩られ、両手に鋭いかぎ爪を携えた巨大な     

「魔神っ!?」

 邪虎丸の数倍の大きさを誇るそいつを従え、オトヒメが淡々と語り始めた。

「お願いね、虚閃角きょせんかく……」

 応えるように虚閃角の両目に光が灯り、こちらに突進してきた。

「いきなり攻撃かよ!?」
「笑えない人は、ここには必要ありません」

 オレ様は咄嗟に、空へ向かって相棒の名前を叫んだ。

邪虎丸じゃこまる――――――っ!」

 空の彼方から邪虎丸が咆哮を轟かせ、猛スピードで飛んでくる。
 オレ様は虚閃角の突進を寸前のところでかわし、そのまま邪虎丸へ乗り込んだ。

「ここは戦いのない場所だって言ったよな! てめぇのやってるこれは、なんなんだ!?」
「お掃除です」

 その冷たい返事に、オトヒメの本性を垣間見た気がした。
 オトヒメはそのままピーンと竪琴の弦を弾くと、虚閃角は邪虎丸の懐に一瞬で飛び込んできた。
 鋭いかぎ爪の一撃を避けきれず、邪虎丸の体が宙を舞う。
 オレ様はすかさず空中で邪虎丸を制御し、再び屋上に着地させる。

「くっ……デケえ図体ずうたいのわりには素早いじゃないか!」

 まるで戦いが始まった狼煙のろしかのように、上空にはリューグーランドの花火が打ちあがり始めた。

    ド ――― ン! ド ―――― ン!

 一つ、二つと上がる花火に照らされた虚閃角の姿は、全身から異様な力を放っているように映っていた。
 だが、こいつらがすべての元凶なら、オレ様がぶっ潰すまでだ!

「喰らえ、エビルタイガーミサイル!!!」

 邪虎丸の胸元から放たれた何発ものミサイルが、一斉に虚閃角へ飛んでいく。
 虚閃角は両肩に備えられた二刀を素早く振りぬき、迫り来るミサイルをすべて切り払った。
 もうもうと立ち昇る白煙の中に、うっすらと虚閃角が立っているのが見える。

「無事だと!? だったら、これで決めてやる!」

 邪虎丸がソードを引き抜き、天に掲げた。

「必殺、タイガーソード!!!」

 ソードの先から生まれた光のエネルギーは猛虎の姿を象り、虚閃角へと襲い掛かる。
 虚閃角は二本の巨大な刀を体の前で交差させると、その力を真正面から受け止めてしまった。
 あろうことか虚閃角は、受け止めた力をこちらへ弾き返して来る。

「なんだと!? ぐあああああああーっ!」

 返された一撃をまともに喰らい、邪虎丸の体は大きく後方へ吹っ飛ばされる。
 コックピットの中を激しい衝撃が襲い、オレ様も一周意識を失いかけた。

「くうう……! 負けるか……っ!」

 力を込めてレバーを握り、喉元に喰らいつけと言わんばかりに声を張る。

「行くぞ、邪虎丸! チェンジタイガー!!!」

 低い唸り声を上げ、猛虎形態に姿を変えた邪虎丸が虚閃角に駆けていく。
 そこにオトヒメが弾いた弦の音色が、鋭く辺りに響き渡った。

「虚閃角」

 弦の音とオトヒメの声を受けた虚閃角は、額に備えられた黒い宝玉に光を集約し始める。

「……っ!?」

 瞬間、額の宝玉から周囲の景色が白むほどの光が放たれた。
 大気を焦がす熱線が一条の束となり、地面を舐め、えぐりながらこちらに迫って来る。
 躱す間もなく、オレ様と邪虎丸は猛烈な光に包まれた。

「うああああああああああーっ!!!」

 直撃だけは避けたものの、邪虎丸はフラフラとよろめき、立ってるだけで精一杯だ。

「ニコニコ笑って、楽しんで」

 虚閃角を満足げに見つめるオトヒメは、あのうさん臭い笑顔で、僅かに声を弾ませた。
 満身創痍の邪虎丸とオレ様を見て、ヤツは冷たく言い放った。

「ゴミはテキパキ……ゴミ箱へ」

 オトヒメが再び弦を弾くと、虚閃角は余裕めいた動きでゆっくりと刀を振り上げた。

「オレ様が……ゴミだと……!?」

 邪虎丸に残された最後の力を振り絞らせ、その場から飛び上がる。

「うおおおおおおーっ!」

 空中で邪虎丸を魔神形態に戻し、ソードを構えて虚閃角に急降下させる。

「一太刀……この一撃で……!」

 虚閃角はまったく動じることなく、邪虎丸に向けて二刀を振り上げた。

    ガキ ―――――――――――――― ン!

 邪虎丸のソードが宙を舞い、地面に刺さった。
 弾き飛ばされた邪虎丸が着地するも、その胴体にピシリと亀裂が走る。

「邪虎丸……!」

 力なくその場に崩れ落ちた邪虎丸は、真っ二つに砕かれ折れていた。

(つづく)


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著者:小山 眞


次回12月24日更新予定


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