【第50回】魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸

魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸

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第25話「ふたつのココロと最後のカケラ」Aパート

「オレ様は虎王。リューグーランドというにぎやかな場所に着いたオレ様たちは、案内人のオトヒメとスタッフたちの歓迎を受けた。そこに用意されていた色んなアトラクションとたくさんのごちそうに、ワタルたちはすっかりとりこになっていた。楽園のようにも思えるこの場所では、みんなが無理に笑っている気がして、どうにもオレ様には居心地が悪かった。ワタルもなぜか笑ってばかりで、まったく話にならない。それどころか、大事な『七魂の剣』をオトヒメに預けてしまったんだ。いつもとはワタルの様子が違っていたのはわかっていた。だが、ワタルの口から放たれたあのひと言にオレ様は……オレ様は逃げるようにその場を立ち去った。ひとりになったオレ様を、オトヒメは虚閃角きょせんかくという魔神を操り、排除しようとしてきた。オレ様は邪虎丸に乗って闘ったが……圧倒的なパワーを誇る虚閃角の猛攻の末に、邪虎丸は致命的なダメージを負ってしまった」

 胴体が真っ二つになった邪虎丸は、もはや微動だにしない。

「あと片付け、よろしくね」

 虚閃角にニッコリと命じ、立ち去ろうとするオトヒメに、オレ様は声を上げた。

「待てよ!」
「……?」

 振り向いたオトヒメは、オレ様を見て声色を変える。

「あなた……剣を、いつのまに?」

 そう、オレ様の腕にはワタルの『七魂の剣』が抱えられていた。
 ヤツの目をくらますため、払った代償は小さなものではない。
 これも、ぜんぶ ――

「邪虎丸のおかげだ……!」

 そう言ったオレ様に、オトヒメはため息をつき、抑揚のない声で言葉を投げる。

「アナタのような人が笑顔を奪うのです。そして争いを呼び、災いを起こす……」
「お前、間違ってるぞ!」

 オトヒメのうさん臭い笑顔を見ているうちに、オレ様は腹の底から込み上げてくる言葉を吐き出さずにはいられなかった。

「なにが戦いのない、笑顔溢れる世界だ! うわべだけおキレイで、うさんくせぇ笑顔に囲まれて……誰もがそれを望んでるって⁉ そんな空っぽな世界、オレ様はごめんだ!」
「……やはり、私が思っていたとおりでしたね」

 これまで一度も崩れなかったオトヒメの笑顔が、ほんの僅かに歪んだように見えた。

「間違っているのは、あなたです……!」

 オトヒメが語気を強め、竪琴の弦をピーンと弾く。
 その音を受けた虚閃角がオレ様の前に進み出て、手に持った大きな剣を頭上に振り上げた。

「く……っ!」

 なにがあっても、ワタルの七魂の剣だけは……絶対に渡さない!
 虚閃角が構えた剣を、オレ様に振り下ろそうとしたその時 ――

「違うっ! 虎王は間違ってない!」

 突然聞こえたワタルの声に、オレ様はハッと顔を上げた。

「ワタル……!?」

 オレ様たちの前に現れたワタルは、必死にタワーを駆け上がってきたのか、汗だくで、息も整わないでいる。

「救世主様……どうして、ここに?」

 驚くオトヒメに、ワタルは流れる汗も拭わずに答えた。

「間違ってたのは……ぼくだ。楽しいことに夢中になって…やらなきゃいけないことを忘れてた……!」

 そう言ってワタルは、オレ様にまっすぐで純粋な眼差しを向けた。

「虎王は、そんなぼくの目を覚ましてくれたんだ!」
「ワタル……」

 間違いない。
 あの強いまなざしと、迷いのない声。
 もう、さっきまでの作られたような笑顔ではなく、これまで何度も一緒に冒険をしてきた —— いつものワタルだ。
 オレ様の中に、安堵と共に嬉しさが込み上げてくる。
 オトヒメはワタルに、またあのうさん臭い笑顔で語りかけた。

「救世主様が庇う価値などありません」

 オトヒメはオレ様を一瞥いちべつし、淡々と続けた。

「この者は私たちと笑みを交わすことの出来ぬ、異質なものです。異質なものは、毒にしかなりません。破滅と破壊を招く、けがれた存在なのです!」
「違うよ!」

 凛とした声で、ワタルは力一杯に叫んだ。

「虎王は、ぼくの大切な……トモダチだ!!」

 ワタルとの間に風が吹き抜け、優しくオレ様の頬をなでた。

『トモダチ』 ――

 それは、オレ様とワタルにとって特別な意味を持つ言葉だ。
 見ると、ワタルの瞳は、僅かに潤んでいた。
 胸の奥の方に、温かいものが広がっていくのを感じる。

「虎王、ごめんね……」
「……」

 オレ様にまとわりついていた憤りや苛立ち、わだかまり。そして不安や焦燥といった感情は、いつの間にか消え失せていた。

「ワタル……!」

 オレ様がワタルへ向かって踏み出した、その瞬間 ――

―― ゴゴゴッ……!

「……っ!?」

 虚閃角との激しい戦闘でもろくなっていたのか、オレ様の足元が突然崩れ落ちた。

「うわぁっ!?」
「虎王っ!」

 抗うことも出来ず、オレ様の体は宙に放りだされた。
 だが、なんとしても、この七魂の剣だけは ――

「受け取れ、ワタル!」

 オレ様は落下しながら、ワタルに向けて力いっぱい七魂の剣を放り投げた。

「虎王 ――――っ!!」

 手を伸ばしたワタルが剣をキャッチする……が、なぜかそのまま躊躇なくタワーから飛び降りた。

「なんで、お前まで!?」
「放っておけるもんか!」
「……!! ばかやろう……っ!」

 ワタルは命を懸けてオレ様のことを……!
 オレ様の心が限りなく満たされていくのがわかった。
 しかし同時に、ワタルを失うかもしれないという哀しみも迫ってくる。
 おまえだけは……ワタルだけは、死なせるわけにはいかない!

 母上……神部七龍神……オレ様はどうなってもいい……
 どうか、ワタルを……ワタルを……助けてくれっ!

「虎王 ――――――っ!!!」

 ワタルは叫びながら、オレ様に手を差し出した。

「ワタル ――――――っ!!!」

 オレ様も無我夢中で、ワタルに手を伸ばす。
 落下しながら、オレ様たちの手が空中で強く結ばれる。
 オレ様がワタルを見つめ、ワタルもまたオレ様を見つめ返したその時 ―― 周りを光が包み込んだ!

「これは……っ!!」

 周囲の景色は、まるで時が止まったように動かなくなっていた。

「ワタル……?」

 なにが起きたかわからずにいると、ワタルは優しく微笑んだ。

「虎王、ありがとう」

 確かな自信を宿した瞳でワタルがオレ様を見つめる。
 ワタルの背後に、幻影のように浮かぶ白い龍のシルエットが見えたような気がした。
 もしかして、これが……?

「龍神丸の、欠片……」

 光の中で見つめるオレ様にワタルは頷き返すと、七魂の剣を引き抜き、高々と天に掲げた。

龍虎丸りゅうこまる―――――――――っ!!!」

 ワタルの七魂の剣先から天に伸びた強烈な光が、空を分厚く覆っていた雲を貫いた。
 その切れ間から真っ白に輝く光の龍が飛んで来て、咆哮を上げながら姿を巨大な竜巻へと変化へんげさせた。
 吹き荒れる暴風の中に、勇壮な魔神のシルエットが浮かぶ。
 竜巻がゆるやかにその勢いを落とすと、そこには白と赤に彩られた魔神がいた。
 こいつがワタルの呼んだ、龍虎丸りゅうこまるなのか……!
 龍虎丸に向かってワタルは両手を広げ、ゆっくりと中へ吸い込まれていく。
 ワタルを乗せた龍虎丸は、白く輝く両翼を力強く広げ、虎の顔をした胸部から咆哮を轟かせた。

「思いっきり行け、ワタル! おまえならきっと……!」

 目を見張り白い魔神を見るオレ様の耳に、龍虎丸のものとは異なる雄叫びが轟いた。

 —— ガオオオオオオオオーッ!!!!!

(つづく)


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著者:小山 眞


次回12月25日更新予定


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