エンタングル:ガール 舞浜南高校映画研究部【第12回】

第3話「n番目の祝祭 n-th festival」3

前回のあらすじ
カミナギ・リョーコは高校映画コンテストに向けて長編映画を撮影している。トミガイによれば、舞浜には一丁目が存在しないという。カミナギとアマネはVR空間で開かれたコンテストの開会式に参加し、AIのルーパに出会うのだった。しめきりは八月三十一日。カミナギたちの映画制作が進む。 ⇒ 第11回へ

 VR空間での開会式が終わって帰宅するとチホから脚本が届いた。
 トミガイの話をヒントに、主人公たちが資料を調べながら迷い込んだ都市の秘密に迫っていく場面が書かれている。
 撮影場所は市役所の資料室がいいというメモと写真が付いていた。これまでの地下空間や洞窟あるいは海や舞浜の市街地とも違う、古い図書館みたいな部屋で悪くない。チホ先輩、自分で見に行ってくれたんだ。
 市役所は南舞浜駅からバスで十五分のところにある。
 カミナギはミズキとウズハラ以外のカミナギ組を市役所前の公園に呼び出した。
 ミズキは今回のシーンで出番がなく、ウズハラは作曲中だ。
 チホにはその場でセリフが変わるかもしれないから来てもらったのだが、トミガイの下手な化粧を見かねて、まったくなんで私がと言いながら化粧を直してくれている。トミガイは女装にすっかり慣れていて、家から舞浜南高校の女子の制服を着ての参加だった。
 キョウは屋根付きの休憩所で作業をするアマネを手伝っている。

「今日はドローンじゃないんすね」
「いつも同じ映像じゃ面白くないでしょ。よし、準備できた。カミナギちゃん、こっち来て」

 アマネは説明なしにカミナギにベストを着せ、カチャカチャと腰のベルトに機具を装着していく。

「これって?」
「カミナギちゃんなら知ってるよ」

 腰の機具から伸びたアームの先端にカミナギのカメラを固定する。
 体を動かすと、アーム全体がわずかに変形する。カメラの位置を変えないように座標を制御しているのだ。

「ああ、カメラスタビライザー。ずいぶん軽いですね」
「そりゃもう、我らが監督のために工夫しましたから」

 とアマネがおどける。
 キョウが興味深そうに顔を近づける。

「へえ、すごいな。ジャイロと電動制御」
「今日は緊張感のあるシーンなんでしょ。先週から作ってたんだ。カミナギちゃんのカメラは機能AI非搭載だからさ。手ぶれっぽい映像にしたければ、あとで加工もできるし、どうかな」

 カミナギは十秒ほど歩きながらあたりを撮影してみた。
 三人で映像を確認すると、確かに画面のブレはほとんどない。

「ありがとうございます! すっごくいいです。三脚で固定して撮ろうかなって思ってたんですけど、この方が動けるし、映像としても変化が出ます」
「もう一つ用意してきたからね」

 キョウがアマネの道具箱を覗き込もうと、彼女に顔を近づける。それを見ていてモヤモヤするのは、もうこれは嫉妬というしかないだろう。別にキョウちゃんのことが好きとかじゃない。これは幼なじみが自分以外の人と仲良くして寂しいだけだ。うん、きっとそう。

 学校は夏休みだが、今日は平日だ。市役所は開いている。
 資料室は、市役所の最上階にあった。白いドアを開けると、小さな図書室のようだった。木製の本棚がいくつも並び、閲覧するための書見台もある。濃緑のカーテンと灰色のカーペットは古びていて、悪くない雰囲気だ。これならそのまま映画に使える。
 入り口には受付カウンターがあるが、内側の椅子には誰も座っていない。

「わたしちょっと許可もらってきます」
「いいから、さっさと撮ろうぜ、カミナギ」
「ダメだよ、キョウちゃん」

 と言ったものの、同じ階の窓口に大声で呼びかけても誰も出て来なかった。適当にドアを開けようとするが、どこも鍵がかかっている。
 ん?
 ここまで誰にも会っていないかも?
 きちんと許可を取って撮影するのは、怒られるのがイヤだからなんて理由じゃない。自分たちの映画撮影は遊びではないのだ。めんどくさくても正式な手続きを全部して、撮影も手抜きしないで、ちゃんと映画を作りたい。
 と考えているカミナギを尻目に、チホが資料室のドアを開けてずんずんと中に入っていく。

「担当の人が忙しいんでしょう。撮影許可があるんだから遠慮しなくていい。誰か来たらそのときに説明すれば十分だよ」

 トミガイの話の通り、地図を見ても舞浜一丁目は存在しなかった。
 みんなで資料室の棚を手分けして探したが、舞浜一丁目の資料は見つからない。二丁目からはきちんとあるのに。

 ――こんな、こんなことって。街が一部、えぐられたみたい。
 ――もう一度確かめよう。
 ――私、怖い。
 ――俺から離れないで。

 キョウもトミガイもだんだんと上手くなってきた。
 わざとらしさが消えて、役に入り込んでいるみたいだ。

「はい! オッケー。二人とも完璧!」
「やったね。ソゴルくん」
「おうよ」
「アマネ先輩、正面からの画はどうですか」
「撮れたよ。カミナギ監督ちゃん、確認して」

 アマネは壁面を移動できる蜘蛛型の小さなカメラを用意していた。
 AI制御で、被写体との位置関係を理解したうえで自ら移動して、カメラの向きも臨機応変に変える。
 カミナギは自分のカメラはAI非搭載のものをわざわざ骨董品店で買ったが、AIが嫌いというわけではない。自分が撮るときはできるだけ自分でカメラを操作したいだけだ。
 映画を作るためには様々な助けが必要なことはわかっている。ロボットが作ったカメラを使っているのだし、編集のためのパソコンにだってAIは何体も入っている。
 だけどAIは映画を作りたいとは思わないはずだ。わたしが映画を作りたいという気持ちは、わたしがしっかりと持っていなければならないものだ。AIは人間の気持ちまでもを支えてはくれない。
 アマネの蜘蛛型カメラは、キョウが話しているときはキョウに、トミガイの番のときはトミガイに、正しくピントを合わせていた。構図も問題ない。

「オッケーです、アマネ先輩。ピント合わせる順番、わたし指示してないのに」
「その程度は無料の撮影AIでもその場で推測して対応するよ。顔認識と話者認識の技術は、動画撮影の基本だからね」

 結局帰るときも市役所では誰とも会わなかった。
 手続きはほとんどデータ化されているし、AIの活用も進んでいるから、人がいないのは当然だとキョウが言った。

「そうかもしれないけど」
「気にしすぎだって。早く学校に戻ろうぜ。俺、泳ぎたくってしょうがねえ」
「もう。魚じゃないんだから」

 再び市役所前の公園で身支度を整える。もう夕方だ。
 カメラスタビライザーを脱ぐと、体が軽くなった。

「みなさん、今日は撮影終わりです。おつかれさまでした。あとはラストシーンを撮れば、撮影は終わりです。明日はお祭りだし、最後の撮影は明後日にします」

 アマネが手をあげて、

「カミナギちゃん、明日は浴衣?」
「去年まではそうでしたけど、今年はどうしようかな」
「映研はみんな浴衣で集合にしようよ」

 アマネの提案に、間髪入れずチホが反論する。

「いちいち集団行動しなくていいでしょ」
「じゃあチホ先輩はへんな私服で来れば」
「はあ? へんってどういう意味? 行かないし!」

 まあまあとキョウとトミガイが仲裁に入る。
 そういえばカノウ先輩はどうするんだろう。わたしが呼んでも来ないだろうけど。
 気にしなくていいと思うと、ますますカノウのことが気になってくる。
 一学期の後半はほとんど毎日のように部室で会って話していたし、合宿にも一緒に行った。
 なのにここ数日はまったく会っていなくて、そのギャップがなんだか奇妙に感じられるだけなのだ。カミナギは無理矢理そう思うことにした。
 そう、カノウ先輩のこと、わたしは全然気にしていないんだから! キョウちゃんのことも!


著者:高島雄哉


次回12月22日(木)更新予定


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