エンタングル:ガール 舞浜南高校映画研究部【第25回】

第6話「エントロピック・アシンメトリ」4

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前回のあらすじ
「あたしたち、去年あの映画を作ったんだね」前回のループの記憶をカミナギとアマネは話し合っていく。今回のループではチホがいないから、脚本がうまくまとまらなかったのだ。もしチホ先輩がいたら、覚醒なんて関係なく、わたしたちにちゃんと映画を撮りなさいと言うかもしれない。⇒ 第24回へ

 この夏はキョウちゃんとほとんど会っていない。
 合宿がなかったし映画制作をしていないからだ。
 そしてカミナギは作りかけのPVのことを思い出した。キョウに電話をかけてみる。

「おう、電話なんて珍しいな」
「キョウちゃん、今どこにいるの」
「更衣室」
「ばか。キョウちゃんのえっち」
「なに言ってんだ。服着てるぞ」
「あのさ、PVのことなんだけど」
「ああ」
「キョウちゃんは時間がループすることを知ってるのに、どうして部員を募集するの?」
「ループったって、完全に同じ時間が繰り返すんじゃないんだ。カワグチたちがすんなり入部することもあれば、ぎりぎりまで俺一人のこともある」
「でも最終的にはまた時が繰り返すのに」
「カミナギ、お前は結末を知っている映画は見ないのか?」

 

 部室で頬杖をついてPVの素材をなんとなく眺めていると、アマネが現れた。

「作業中?」
「いえ、別にもういいんです」

 キョウとはまたケンカみたいになってしまった。バカみたいだ。

「ねえ、カミナギちゃん。あたしたちの状況ってある意味、理想的な不老不死なんじゃないかな」
「不老不死ですか? それはそうかもしれませんけど、理想って」
「もし現実だったら、不老不死を実現した途端、地球は人で溢れかえっちゃうよね。不老不死じゃなくても、寿命が百年二百年と伸びれば、あっという間に地球は満員。死を乗り越える前に、人類は滅んじゃう。そうならないように人間は、少なくともあたしは宇宙コロニーとか作るけどね」
「不老不死は現実的じゃないってことですか」
「まったくそのとおり。肉体を失う代わりに不老不死を情報空間内で現実化するシステムがこの量子サーバーなんだよ。滅びゆく世界の時間を延長する、人類全体の延命装置としての量子サーバーね。設計者の本当の意図は知らないけど、そういうシステムとして利用することはできる」
「あの、アマネ先輩は覚醒したのに、どうして研究や工作を続けられるんですか」

 カミナギの問いに、アマネが不思議そうな顔をして答える。

「あたしは自分や世界がどうなっても、あたしがしたいことをするだけなんだけど。しかも覚醒した状態ならループから離れて継続的に研究できる。カミナギちゃんだってこれからずっと新しい映画を撮れる」
「自分の映画を誰かが見てくれるとは限らないって、わかっていたんです。それでもわたしは……いつかきっと誰かに見てもらえると思っていて、だけど今はもう……」

 今はもう、量子サーバーの外にその映画を見てくれるかもしれない誰かはいないのだ。

「なるほど。周囲の状況によって、できることは変わってくると。でもしたいことは変わらないんじゃない? あたしだって世界中の研究者と議論してみたかったけど、話し相手だって作ればいい。あたしが作ったAIのほうが優秀かもしれないし」

 どうやらカミナギよりもアマネのほうが、立ち直りが早いらしい。

「あたし、芸術のことはよくわからないんだけど、映画はひとが撮ってひとが見なきゃいけないの?」
「それは……いけないってことはないと思いますけど。いえ、いけないってことはないです。AIのスタッフとキャストだけで作られたフルAIの映画だってあります」

 AIによる批評のほうが信頼されているし、AIの分析を元にして商業映画は作られている。

「人間だろうとAIだろうと映画は映画で、そのほうがシンメトリーだと思うけど」

 アマネは素朴に語っていた。

「わたしもそれは別にそれで良いと思います。でもこんな限られた世界で」

 カミナギは自分でわかっていた。これは言い訳に過ぎない。作ろうと思えばどんな状況だって何でも作ることはできる。現に目の前でアマネがやっているじゃないか。

「じゃあもう映画作りはおしまいかな?」

 カミナギはアマネの問いに答えられなかった。

 

 数日後キョウから電話が会った。

「カミナギ、ちょっと歩かないか」
「うん……。いいよ」

 マンションのロビーで待ち合わせる。
 顔を見るのはひさしぶりだ。
 もしかして、このまえ水族館で抱きしめられて以来? そう思うとカミナギは緊張してしまった。
 二人はしばらく何も話さず、夕暮れの堤防のうえを歩いた。

「カミナギ、カメラは」
「なに? うちに置いてあるけど」
「いつも持ってるだろ」
「いつもじゃない」

 ダメだ。また険悪になっちゃう。

「いや、いつもだよ。どのループでも、いつもお前はあのカメラを持ってずっと何かを撮ってる」
「そう……」
「で、いっつもオレは映画に出てるんだぜ。トミガイとミズキも大抵出てるけど」

 ようやくキョウとカミナギは笑い合った。

「カミナギ。もうすぐ大きな作戦がある。……くわしく話すとお前の覚醒に影響あたえそうだから――」
「――いいよキョウちゃん。なんとなくわかるから」

 キョウやシマ生徒会長がこの世界を支える量子サーバーに対して何かをしていることは、なぜかわかる。それがとても危険だということも。

「戻ってきて」
「おう。当たり前だろ」

 キョウちゃんが無理に笑っているのがわかる。彼のことがわかるのは、覚醒とはまったく関係ない。わたしたちは赤ちゃんの頃からずっと一緒に、ずっと同じ時を生きてきたからだ。

「ねえ」
「なんだ?」
「キョウちゃんだけが戦わなくていいんだよ。わたし半覚醒で、キョウちゃん心配かもしれないけど、わたしだってキョウちゃんを守れるんだから」
「ああ、わかってる」

 そう言うキョウの額に、光輝く円盤が浮かぶ。

「悪い。帰りは送れない」

 キョウはカミナギの手を取る。
 カミナギはその手を強く握り返す。

「キョウちゃん!」

 カミナギはキョウに抱きつこうと彼の胸に飛び込むが、その瞬間、彼の体は光の粒子を残して消えてしまった。量子サーバーの外、戦いの場に、幼なじみのデータは転送されてしまったのだ。


著者:高島雄哉


次回3月30日(木)更新予定


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