エンタングル:ガール 舞浜南高校映画研究部【第7回】

第2話「ホログラフィック・ノイズ」2

前回のあらすじ
舞浜南高校一年のカミナギ・リョーコは映画監督志望。高校映画コンテストにむけて長編映画を撮影している。夏休みが始まり、映画研究部は合宿をすることに。 ⇒ 第6回へ

 チホの教室から部室に戻ると、ミズキとカノウがいた。トミガイはキョウと帰ったという。
 ミズキは演劇の台本を、カノウは文庫本を読んでいた。

「カノウ先輩、チホ先輩が合宿に来るそうです」
「へえ、脚本、書くって?」
「それはまだ。でも、もう一度お願いしてみます」
「彼女を合宿に呼べただけで十分すごいよ」

 カミナギは、カノウに褒められて素直にうれしがっている自分に気づく。恥ずかしくなってミズキに話しかけた。

「ねえ、ミズキ、渋谷に水着買いに行こうよ」
「いいね! いつ行く?」
「きみたち、舞浜駅前のルミナスはどうかな」

 カノウが強引に二人の会話に入ってきた。
 二人は顔を見合わせる。

「先輩、なんで店の指定まで」

 カミナギは笑いをこらえながら冗談半分に続ける。

「もしかして、わたしたちに着てほしい水着があるんですか?」
「え? そうなんですか」

 ミズキも甲高い声で騒ぐが、カノウはにこにこするだけでまったく動じない。

「オレはカミナギくんの撮影のことを考えたんだよ。ここから渋谷まで片道一時間はかかるし、舞浜駅前の店は半額セールをしていたから、そのぶん機材費に回せるんじゃないのかなと」
「水着は冗談として、先輩がわたしの映画のことをそんなに気にしてるなんて思いませんでした」
「一応部長だからね」

 夏休み初日、合宿所の利用者は舞浜南高校映画研究部だけだった。
 三泊四日は長いかとも思ったが、県内の高校生は格安で泊まれるし、海のシーンも撮影できる。
 結局チホは照れくさそうにしながら合宿所にやってきた。アマネとカミナギそして仮部員としてミズキがいて、女子は四人。男子はカノウとウズハラ、それから仮部員のキョウとトミガイで、男子も四人だ。
 男女それぞれが部屋に荷物を置くと、みんな着替えて海岸へ駆け出した。

「アマネ先輩、すごい水着ですね」
「そう?」

 アマネが胸を張るが、カミナギが言いたかったのは大きく開いた腹部のほうで、スラリとした白いお腹が結構なまめかしい。
 カミナギはおとなしめの白いワンピースにした。学校の競泳水着よりはカワイイけど。チホ先輩みたいにフリルつきにすれば良かったかな。
 ミズキはピンクのビキニを堂々と着こなしている。
 カノウの姿を探していると、キョウに声をかけられた。

「カミナギ、泳がないのか? 海に来て泳がないなんて考えられねえ」

 カノウを気にしていたことがバレるはずもないのに、カミナギはドキドキしてしまう。

「うるさいな水泳部。なんかだるいから、わたしパス」
「泳げば気持ちよくなるって」
「なにそれ。キョウちゃんのえっち」
「はあ? お前なに言ってんだ。いいから、来いって」

 キョウはカミナギの手首をとって、海の中へと連れて行く。
 いつもキョウが泳いでいるところを撮影しているのだが、それはカメラのレンズを通してだったし、こんなに近づいたのは子供のとき以来で、カミナギは赤面してしまう。

「バカ!」

 カミナギはキョウを突き飛ばした。大きな水しぶきが立って、すぐにキョウが立ち上がる。

「ほら、楽しいだろ?」
「まあね!」

 そう言いながらカミナギはキョウに水をかけるのだった。

 翌日、集会室で映画の上映準備をしていると、トミガイが自信ありげに語り始めた。

「舞浜の浜にはウミガメが来るという噂があるんだよ」
「ホントかよ!」
「キョウちゃん、反応しすぎ。プロジェクターのセッティングしてよ」
「東京湾の一番奥にまでウミガメが泳いできてるんだぜ? これに反応しない水泳部員はいない!」
「合宿中は映研部員! 仮だけど」

 キョウはアクション、トミガイは歴史ドラマ、ミズキはミュージカルと、思いっきり自分の趣味を持ち込んできた。
 カノウは当然ドキュメンタリー。チホはミステリ、アマネはSF。ウズハラは意外にも西部劇だった。

「これ、映画音楽が素晴らしいんだ」
「楽しみです。先輩が作る曲も」

 ウズハラはかすかに白い歯を見せて笑うのだった。

 カミナギが女子部屋からパソコンを運んでいると、話し声が聞こえてきた。

「カノウ先輩、どうしてカミナギにこの世界のことを話したんだよ」
「オレとしてはむしろ隠したつもりだけどね。量子緩衝機を見てしまったカミナギくんに誤魔化すようなことを言うと、勘の良い彼女のことだ、かえって疑心暗鬼になると判断したんだよ。それに真実の言葉を聞いたところで、必ずしも真相に到達するわけじゃない。数学書の最後の一行だけを読んでも無意味なようにね。実際、彼女の額(ひたい)にセレブアイコンは現れていない。その他の兆候もない」
「だからって」

 なんのことを話しているのか、カミナギには理解できなかった。水泳部のキョウとドキュメンタリー映画を撮ろうとするカノウ。この二人が演技の練習をしているとも思えない。

「それにきみは最近カミナギくんのことをちゃんと気にしているのかな」
「え?」
「イェルのことさ。量子サーバーのシステムには未知の部分も多い。きみの行動のほうがシマは嫌がるだろうね。過剰なシステム介入だ、ってね」
「そんな。イェル、シズノはシステムなんかじゃない」

 キョウちゃんがカノウ先輩に本気で怒っている。

「オレはきみを止めるつもりはない。お互い、いつ消えるかもわからないんだ。好きにするさ」
「わかりました。でもカノウ先輩、カミナギにむちゃブリはしないでくださいよ」
「大丈夫。オレは世界に介入するつもりはない。単なる傍観者として観察して記録したいだけだ」

 話が終わったようで二人が近づいてくる。カミナギは音を立てないように集会室に戻った。
 すぐにカノウとキョウが部屋に入ってきた。
 カノウは何事もなかったかのようにカミナギに話しかける。

「普段カミナギくんは何を見るの」
「わたしは何でも見ますよ。アクションもホラーもアート系も。古いのも新しいのも。あ、でも最近は映画館に行ってないな」
「映画館か」

 カノウはいつもの思わせぶりな態度をとった。

「なんですか」
「いや、なんでもない。オレも行ってないなと思ってね。今度一緒に行こうか」
「はあ。え? ええ?」

 カミナギは急にカノウの顔が近い気がして、のけぞるように体を引いた。みんなはスクリーンの準備をしていて、こちらの話し声は聞こえていないけれど、カミナギの声は極端に小さくなる。

「カノウ先輩、それって、だって、あの、わからないけど、デ、デートじゃないですか?」
「きみはウブだな」
「知りません!」

 カミナギはいたたまれなくなり、そこから逃げ出して、ミズキに抱きつくようにしがみついた。

「なになに。何かあった?」
「なんでもない。なんでもないけど」


著者:高島雄哉


次回11月17日(木)更新予定


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